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ジャラジャラジャラ…! 金属音をたてながら床に落ちた鎖を見つめた。 自由になった左手首。 そこを擦りながら顔を上げれば、同じように自由になった右手首を擦る千田と目が合った。 「軽いね、鎖ないと。何か物足りないな。」 「、」 苦笑しながら呟く千田の言葉にカッとした。 「おい」 「え?」 「歯食いしばれ」 言葉と共に三園は右腕を振り上げた。 ガッ!! 拳に伝わる衝撃と、後ろに倒れる千田の姿。 フーッ、フーッと荒い息を吐きながらも、三園はもう一度振り上げた腕を無理やり抑えた。 「…………………」 「…………ッたぁ…」 ベッドにしがみつくようにしていた千田が呻く。 そうしてゆっくりと体を起こせば、小さな硬いものがフローリングに落ちた。 「「あ…」」 二人の声が被る。 カツン…と床を転ぶ血の付いた歯に、千田がクツクツと肩を揺らした。 「なかなか効いた、今の」 「フンッ」 正直まだ殴り足りない。 けれども、口から血を流し、己の抜けた歯を拾う千田の姿に少しだけ溜飲が下がる思いがした。 「今ので!」 「うん?」 ティッシュで口を押さえ血を止めようとしている千田を指差す。 「今の一発で我慢してやる。」 「うん…」 「だから、ちゃんと謝れ」 「………!」 真っ直ぐに見下ろしながら告げられ、千田は一瞬目を大きくした。 本当ならもっと殴りたいだろうに。 通報されたとしても、それはそれで仕方ないと思っていた。 なのに三園はこの一発で、千田の身勝手な行いを許そうとしているのか。 「ちゃんと、謝れ」 怒りの感情を瞳に宿したまま、繰り返される言葉。 これは…いったいどういうことなのだろう。 『許される』と、三園の中の自分はどうなるのだろうか。 『忘れられる』…のだろうか? 「…………………」 暫く続く沈黙に、「おい」と三園が痺れを切らす。 それを遮るように手を上げると、千田はゆっくりと立ち上がった。 少しよろめく体を何とか支え、口を押えたまま頭を下げる。 「………三園の」 「………………………」 小さな声は少し震えていて。 「君の意思を無視したことは…謝る。ごめん。」 「おう」 素直に謝罪の言葉を口にするその姿に、三園は少しだけ驚かされた。 千田の赤くなった頬と血の滲む唇に、これは腫れるだろうななどと考えていれば、千田が言葉を続けた。 「けど…監禁したこと、君に触れたことは謝らない。」 「はぁ?いや、そこが一番重要だろ!」 三園が思わず声を荒げれば、千田はフワリと笑った。 「三園が好きだから」 「っ、」 「だから、謝らない」 強い意志のこもった瞳に三園の言葉が詰まった。 「…んだよ、それ。勝手すぎんだろ…」 どう返せばよいのか分からず、その瞳から逃げるように三園は視線を逸らした。 それに千田の体が咄嗟に動いた。 「な、」 「あ…」 ほぼ無意識に抱き締めてしまい、千田自身も戸惑う。 けれども、抱き締めた体は温かくて…離すことができない。 「ごめん、少しだけ」 「ハァ…ほんと、なんなんだよお前」 怒っているとも、呆れているともとれる大きな溜め息が聞こえ、千田はギュッと瞳を閉じた。 ごめん、三園。 本当に…大好きなんだ。 だから刻み続けて欲しい、君の中に僕を。 そのために君の時間を奪ったのだから。 「いっ…!!」 三園の裸の肩に、キツく歯を立てる。 途端に暴れる三園の体を腕に力を込めることで押さえ込んだ。 忘れないで、この五日間を。 消さないで…君の中から『僕』を。 「駄目だよ、僕を許しちゃ。」 噛み付いた跡に、唇で触れる。 祈るように告げられた言葉に、三園の身体が震えた。

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