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眩しい…
カーテンの隙間から差し込む光が顔を照らし、その眩しさに三園は目を覚ました。
まだボンヤリとする頭。
体をゆっくりと起こし、伸びをしてハッとする。
咄嗟に左手首を見る。
ズシリとした重みも、冷たい感触も、不快な金属音も…
何もない。
周りを見回せば、適度に散らかった自分の部屋。
「いよっしゃ!」
自分以外誰もいない部屋で三園は大きな声を出した。
五日間。
自由を奪われた監禁生活が終わりを告げ、夕方には自分の部屋に戻れた。
少しホコリ臭い空気を入れ替え、シャワーを浴びた。
夕飯に買って帰ったコンビニラーメンを食べ冷蔵庫の缶ビールを飲むと、急に襲ってきた睡魔。
慣れた自分のベッドに転べば、そのまま意識は遠のき…今に至る。
安心した。
それが一番しっくりくる。
どうこう言っても異常な環境下で過ごした五日間に、知らずと緊張していたのだろうか。
何の緊迫感も束縛もない中ついた眠りは、今までで一番深く眠れた。
「っし、起きるか!」
勢いをつけ立ち上がると洗面台に向かった。
バシャバシャと顔を洗い、歯を磨く。
今日からまた大学だ。
バイトも新しい所を探さないといけない。
友人たちに心配もかけているだろうから、説明もしないといけない。
やることは沢山あるが、戻ってきた日常に拍手を送りたい気分だ。
今日の講義は昼からだし、この後はゆっくりジョギングするのも良い。
「……………」
そう思うのに。
歯ブラシを動かしていた手が止まる。
洗面台の鏡を見つめる。
ただ、少し…
少し気になっていることがあるとすれば。
鏡に映るくっきとした歯形。
千田の跡が残る左肩をそっと押さえ、部屋を出るときに告げられた言葉を思い出す。
『三園。それが消えるまで、ここには来ないで』
『は?来ねぇし。』
『うん、でも一応。』
なんであんな事を言ったのか。
そもそも、監禁された部屋に近づくわけがない。
なのに…
『さようなら、三園』
泣くんじゃないか、そう思わせる声と。
困ったような、名残惜しそうな…そんな複雑な笑顔を浮かべ見送った千田の顔が、何故か頭から離れなかった。
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