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第3話

「取り合えず、生二つ!それと───」 個室に通され向き合うように座り、男は店員を呼ぶと勝手に注文をしだすしまいだ。 俺の意見に耳を貸す気など、さらさらないらしい。 その間に男を観察してみれば、金髪の頭に負けないくらいのはっきりと整ったパーツを持つ顔をしている。歳はまだ二十代だろう。こんなおっさんを選ばなくたっていくらでも若いのが引っ掛かるだろうに。 「君、いくつ?」 「君じゃないよ!大智(だいち)って呼んでよ」 「ぶっ?!」 早速運ばれてきたビールに口を付けたところで、まさかの名前に思わず吹いてしまった。 何だこのミラクルは。こんな偶然全然嬉しくない。 「ああ・・そう・・大智くんね・・」 「呼び捨てがいいなー。あ、歳は二十五だよ」 十も下だと聞かされ、なんだか落ち込みそうだ。そりゃテンションにこれだけ差があってもおかしくはないか。 「名前教えてよ」 「(みなみ)だよ。ちなみに三十五」 「マジ!?もっと若いと思った」 年寄りで悪かったな、と心で呟き、運ばれたつまみを食べながら酒を進めた。 「っていうか、なんでさっき咽せたの?」 「ああ、恋人と同じ名前だったんだよ」 枝豆を食べる大智にさらっと答えると、その顔がとても嬉しそうに笑った。 「本当に恋人いたんだ。ってことは、南も俺と同じでゲイなんだね」 「あ・・」 話しやすい雰囲気で、なにも考えずに答えていたことに後から気づき後悔したけど、もう手遅れだ。 「恋人がいるのになんで一人でいたの?」 「今日は仕事で帰ってこないんだとよ。だから久し振りに───」 「ん?」 無意識にペラペラと話している自分に気がついて、言葉を途中で止めた。こんな見ず知らずの若造に話す必要はないじゃないか。 「俺の事はどうでもいいんだよ」 「えー、知りたいのに」 知ってどうするんだ。 ふてくされたように頬を膨らませる大智の顔に思わず笑ってしまいそうになった。 その後は、相変わらずベラベラと喋る大智の話に相づちを打った。 当初の予定とは全く違う展開になってしまったけど、こんなに話をしたのも久し振りで、外に出てよかったと思い始めていた。 いい感じに酒が進んだ頃、酔った様子の大智が立ち上がり、何故か俺の隣に移動してきて突然腰を抱かれた。 「おい、酔っ払い」 「酔ってねーよ。ねえ南、俺と付き合おうよ」 「はあ?もう酔っ払いは帰れ」 「だから酔ってないって。付き合ってる奴がいたっていいよ」 「いい加減にしろよな」 腰を抱く手を引き剥がそうとしたけど、酒が大量に入ってるとは思えないほどの力でビクともしない。 「じゃあセックスしよ」 「馬鹿かお前は」 「南、欲求不満でしょ?」 「ッ、そんな事ばっか言うなら俺は帰るぞ」 この馬鹿力から逃げを打つように、這ってでもここから抜け出そうとすれば、バランスを崩して押し倒される形になってしまった。 「こういう冗談は嫌いなんだよ。退けって」 久し振りに感じる他人の体温と、重なる股間に思わず反応してしまいそうになる。 どうにかして大智を押し退けたかと思ったのに、次に痛いくらいに手首を掴まれた。力ずくに引き起こされると、そのまま居酒屋を飛び出し、路地裏のラブホへと強引に連れ込まれてしまった。

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