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第11話
大智とは駅で別れ、俺は自宅に足を向ける。
帰宅ラッシュは過ぎても電車内はまだ人が沢山乗っている。座席は空いていたけど立ったまま閉まったドアへ体を預けて、過ぎ行く景色を何も考えずぼうっと見送る。
自宅最寄り駅につき、徒歩で十五分。
アパートの階段を気怠く登り、ドアノブに鍵を差し込んで回すと手応えはなく、もう鍵は開いていた。
「あれ?」
今週末も大地は泊まりの仕事で帰ってこないと、前の日の夜に言っていたのに。
狭いポーチには、明らかに大地の靴が脱いであった。
急に変更でもあったのかと考えながら、リビングに入ると、大地はソファーに座りテレビを見ている。
「今日泊まりじゃなかったんだ?」
声を掛けながらソファーに近づいて荷物を置くと、ビールを一口飲んだ大地がチラッと俺を見ると直ぐに視線を逸らしてしまった。
「どこ行ってた」
「へっ?どこって、仕事だよ・・」
俺の質問は無視で、不機嫌そうに聞かれた。
嘘をついてしまった・・。
後ろめたさと罪悪感で語尾が小さくなってしまう。大地のそばに居づらくて、キッチンに手を洗いに行くついでに冷蔵庫を覗く。
「メシは?食った?なんか作ろうか?」
「メシはいいから、ちょっとこっちこい」
話を逸らしたい一心で聞いたけど、さっきよりも怒ったような声に負けて、恐る恐る大地の横に座った。
「南、俺に隠してる事とかあるだろ」
「っ、なんだよ急に」
大地の言葉を聞いた瞬間、一気に心臓がうるさくなって、手に汗が滲んだ。
「これ、なんだよ」
大地は自分のスマホを差し出してきて、俺に見せてくる。
トーク画面には、俺から大地宛てに送った文章が映っていた。
「今日はありがとう、また会いたい、って、しかもこの店の名前、ラブホ街にあるとこのだよな。なにお前、浮気してんの?」
「ち、違う!こんなの俺は送ってない!」
大智といるとき、スマホなんか触ってないしそんな事ありえない・・・。
そこまで思い出してハッとした。俺がシャワーを浴びてる時だ。あの時、唯一俺は大智から離れた。俺がいない隙にこんな内容を送ったに違いない。
あ、と声を出しかけたけど、送ったのは俺じゃないにしろ、浮気をしていた事実は変わらない。誤魔化しようがない。
俺が我慢出来なかったの悪い。しかも今日は自分から求めた。
言い訳も何も思いつかなくてずっと黙っていた事で、これは真実なんだと理解した大地は溜息をついた。
「南はそんな事する奴だとは思ってなかった。マジショックだわ」
胸がちくちく痛くて息苦しくて泣きそうだ。
「最低だわ」
だけど、その最後の酷く冷たい一言が引っ掛かって、黙っていられなくってしまった。
「さ、最低なのはそっちもだろ」
「ああ?」
「いつもいつも大地ばっかりで、俺の気持ちなんか考えたことないだろ!」
言い返してしまったらもうお互い引けなくなっていて、俺が悪いのに黙れなくて、謝れなくて、もうどうすることもできなかった。
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