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第6話

 二人は無二の親友になり、高校も同じ私立の進学校に進んだ。  清正はそのまま付属の大学に残り、光は美大のデザイン科を受けて外に出た。進路が分かれても清正との距離は変わらなかった。  ムダに綺麗すぎる容姿とものを創り出す才能以外、全ての能力を放棄して生まれてきた。いつか清正が光をそう評した。  自分の欲しいもの以外、何も持っていないと。  顔の造りの良し悪しはともかく、何かを作り出せる力があるなら、それで満足だと光は答えた。清正は光に、生きてゆくための能力が足りないのだから、ずっと自分のそばにいろと言った。必ず助けてやるし、守ってやるからと。冗談のように笑いながら言って、肩を抱き寄せた。  どこにも行くなと繰り返した清正の言葉を、光は今も信じている。  何かあれば、光は清正のところに行く。嫌なことがあって、それをうまく説明できない時でも、清正がそばにいれば安心できる。だから、時々胸が苦しくなるような甘い痛みに気付いても、その気持ちに決して名前は付けなかった。  名前のない気持ちなら、ないものとして扱える。  ないものが壊れることは、絶対にない。  清正が結婚していた期間だけは、あまり顔を合わせなかった。  就職した年で、忙しかった。どこにでもある言い訳を借りて、自分と清正を納得させた。  フォトフレームの中には十年ほど前の光と清正が並んで写っている。背景は清正の家の庭で、なぜこんな写真を撮ったのかよくわからない。  十五歳、五月の薔薇の下で……。  清正の母である聡子(さとこ)が、丹精込めて手を入れていた庭。七原家の庭は、小さな楽園のようだった。  さほど広くない空間を、立体仕立ての薔薇が彩る。パーゴラに絡むアンジェラの下の青く塗られた大きなベンチ。そこで、光はよく本を読み、昼寝をした。  隣にはいつも、清正の気配があった。  そこまで思いをはせて、光はゆっくり長いまつげを伏せた。  心の扉にかけた鍵を慎重に確かめる。薔薇の繁みの奥に潜む秘密の扉。その中に隠したものを誰にも見せてはいけない。  永遠に、秘密にしておくべきもの。

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