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第46話

「あ……っ」  背後から胸の飾りを摘ままれて身体が丸くなる。  清正が嬉しそうに笑った。 「ここ、敏感になったな」  灯りを落としたリビングで身体をまさぐられていた。  ゆっくりとシャツの前ボタンが外されてゆく。うなじに唇を押し当てられて、ん、と短い息が零れる。  紙の手提げいっぱいのチョコレートを持って清正が帰宅したのは、十時をまわった頃だった。相変わらずたくさんもらうのだなと、何の気なしに呟いた。  気になるかと聞かれて『別に』と答えると、これでも昔よりずっと少ないのだと何の言い訳かわからないことを清正は言った。  バレンタインデーのチョコレートは、一昔前と違って自分自身や女性の友だち同士で贈り合うことが多くなったのだそうだ。あとは特定のパートナー、そして同僚や取引先の男性社員に義理で渡す。愛の告白のために贈る人間は少数派になったと清正は続けた。  だからなんだと光はむっとして聞いていた。 『去年までは汀の保育所に全部置いてきてたんだ。でも、今年はそもそも汀の迎えがなかったし、光、わりとチョコとか甘いもの好きだしと思って、持って帰ってきたんだぞ』 『別に好きじゃない』 『どれでも欲しいのやるから選べ』 『いらない。全部保育所に持ってけよ』  むっとして答えると、ニヤリと笑った清正が『やきもちだな』と決めつけた。光が睨むと、やたらと嬉しそうな顔を近付け『違う』と言うのも聞かずに、抱きしめてキスをした。  そのままリビングのソファに押し倒されたのだ。 「ん、清正……」  シャツが床に落とされ、肩や肩甲骨のあたりにちりりとした痛みが走る。  胸や脇腹だけでなく背中にも赤い痕が刻まれてゆく。清正がそばにいない時にも、ふと目にする度に指や唇の感触を思い出させる罪深い印だ。  次々に刻まれるそれは、風呂に入れる時に汀の目に触れる。痣に似た鬱血を痛くないかと心配されることもある。  そうすると、なんだかとてもいたたまれない気持ちになる。 「痕、つけるな……」 「無理」  毛足の長いラグの上にうつぶせにされて、腰の下あたりにもその印を刻まれた。  下着ごと緩いボトムを下ろされ、あらわになった尻に唇を這わされる。 「清正、やだ……」 「ここも、すげえ可愛い」  身体の中で唯一やわらかい二つの丘をやわやわと両手で掴まれ、もう一度、「嫌だ」と吐息を零して首を振った。 「なんで、そんなことする……」 「早くここも欲しい」  質問に答えていないと振り向くと、仰向けに身体を返されて唇を吸われた。  差し込まれる熱い舌。そこに自分からも舌を絡める。中途半端にまとわりついていた衣服を剥がされて、一糸まとわぬ姿になった。 「光、綺麗だ」 「バカ」  晒された中心が心細くて片膝を立てて隠す。  口づけを繰り返しながら、清正の手は肌の上を何度も上下に滑り、下腹部を辿って、緩く兆し始めたその場所を包み込んだ。 「あ……」  自分だけ乱されてゆくのが嫌で左右に首を振った。 「清正、……っ」 「光、どうして欲しいか言って」  会話の合間にもキスが繰り返される。光は切れ切れに望みを口にした。 「清正も……、脱げ……」  ふはは、と短く笑った清正が、嬉しそうな顔のまま手早くジャージの上下を脱ぎ捨てた。  口づけを続けながらワイシャツのボタンを外し、片袖ずつ器用に腕を抜いて、まとうもののない肌を晒す。  見上げる身体は、高校時代の記憶よりもいくらか厚みを増していた。  痩せて見えるのに、きっちりとお手本のような筋肉で覆われていて、思わず観察してしまう。 「おまえ……、綺麗な身体してるな……」  正直に褒めていた。 「気に入ってくれた?」 「うん。ギリシャ彫刻とか、ルネッサンス期の像みたいだ」 「なんだそれ、ダビデ像みたいのか?」 「ダビデはもっと頭が大きいけど……」  光を見下ろし、髪を撫でながら清正が微笑む。 「そうなのか? 意外だ」 「下から見上げるものって、その角度から見た時にかっこよく見えるほうがいいだろ。だからだいたい頭が大きいんだ。鎌倉や奈良の大仏とかも……」  するすると言葉を紡ぐ唇を軽く啄まれる。邪魔をするなと視線を向ければ、熱のある目が見つめ返し、後で聞くから今はもう黙れと言うように唇を塞がれた。  再び身体の上を指が滑り始める。

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