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第47話

 清正に触られるのは気持ちいい。  まるで自分が甘い菓子になったように、とろりと何かに溶けてゆくような、あるいはふわふわと膨らんでゆくような気持ちよさだ。  ドキドキするのにすごく安心で……。  光も清正の肌に触れてみたくなった。自然に腕が上がり、滑らかな背中を抱きしめていた。  腕の中の背中にするすると指を這わせて体温を確かめ、腰の位置まで自然に撫で下ろして、たどり着いたそこに下着があることに眉をひそめた。 「パンツ脱いでないぞ……」  光はもう全部晒しているのに、清正だけ下着を付けているのはずるいと思った。 「え。脱いでいいの?」 「脱げ」 「……いいけど、俺のはダビデ氏のように慎ましやかではないよ?」  何を言っているのだと眉間の皺を深くしたが、おもむろに下げられたボクサーパンツの中から勢いよく登場したものを目にした瞬間、光は慌てて目を逸らしていた。  大きい。  心臓が送り出す血液が、全身をみるみる赤く染めてゆく。  ちょっと困ったように笑ってから「やっぱりおまえ可愛い」と囁いて、清正がキスをする。  肌と肌を直に合わせて身体を重ねると、清正の体温が伝わってきた。心臓はドキドキと騒いで苦しいほどなのに、心は穏やかに満たされていて不思議だった。  何度も飽きることなく口づけを繰り返す。その合間に「可愛い」と繰り返し囁かれて、ふだんならそんな言葉を言われても絶対嬉しくないのに、どうしてかひどく幸せな気持ちになった。  手の中に清正の熱を握らされて慄く。熱い、大きい、硬いと言って放そうとするたびに、握り直すように導かれる。 「このまま……。俺のことも気持ちよくして」  光の昂ぶりを長い指で包んで、輪にしたそれを上下に扱く。 「あ、清正……」  促されて光も清正を必死で扱いた。徐々に呼吸が荒くなってゆく。 「あ、は……っ」 「光、ん……っ」  気持ちいいのに苦しい。  このまま昇りつめてしまいたいけれど、一人の時でもそんなに多くは吐き出すことのない体液を、清正の前で放つことが不安だった。 「清正……、イく」 「光、大丈夫だから……、イくとこ、見せて」 「や、だ……」  あ、と小さな悲鳴を上げる。  熱い先端同士が触れ合い、身体中に鳥肌が立った。 「あ、あ……」  触れたものが擦り合わされると、言葉にできない悦楽が身体中を走り抜ける。ああ、と抑えきれない喘ぎが口から零れ落ち、清正の口づけがそれを封じた。  深く舌を絡め合う。熱く硬いもの同士が互いを擦り合い、短い呼吸の合間に甘い声が零れた。 「あ、あ……ん、あ……」 「光……、っ……」  捏ねるようにして熱が絡まり、堪えきれない愉悦が身体中に広がっていった。  きつく身体を抱きしめ合い、淫らに舌を絡め合い、深いキスを繰り返しながら密着した腰を前後に揺らした。 「あ、あ、……」  もっと……、もっと近くに行きたい。  もどかしく全身がうねる。  胸の突起を指で押しつぶされて背中が跳ね、泣きそうな声で限界を訴えた。 「や、あ……、でちゃ……」 「出せよ」 「や。あ……っ!」  俺もイくからと囁かれて、最後の枷が外される。 「あぁ……っ」  ひう、と悲鳴に似た声を上げて背を反らした瞬間、勢いよく弾けた。 「あ、ああ……っ」 「……っ!」  少し遅れて、清正からも熱い液体が放たれる。  下になった光の腹を二人分の白濁が濡らす。  軽く目を閉じた清正が、乱れた呼吸の合間に満足そうに「ああ」と呻いた。その声にゾクリとし、額に光る小さな汗の粒に見惚れる。  吐き出している時の満ち足りた顔を、綺麗だと思った。その顔を瞼に焼き付け、長い睫毛を伏せる。  光の開いた唇からも、熱い吐息がいくつも零れてゆく。  緩く腰を揺らして甘い余韻を味わい、呼吸が整うのを待って唇を合わせた。  舌を舐めて、何度もキスを繰り返す。  キスは好き?   キスは好き……。光の舌を優しくしゃぶり、囁くように清正は繰り返した。  きらきらと満ち足りた気持ちが胸を満たしていた。  清正の前で精を吐き出すことは、少しも怖いことではなかった。 (とうとう、してしまった……)  清正と。  セックスをしてしまったのだ。なんだか胸がいっぱいになりながら、光はその事実を噛みしめた。 「……しちゃったな」 「ん? しちゃったって?」 「えっと……、清正と、えっちした」  頬を熱くして繰り返すと、なぜか清正が沈黙する。 「…………」  不思議に思って閉じていた目を開ける。困惑した顔が見下ろしていた。 「……どうしたんだ、清正?」 「いや。あのな、光……」  しばし、言葉を探してていた清正が、何かを探すように視線を周囲に巡らせる。  そして諦めたようにその視線をその光に戻し、ぼそりと言った。 「これ、まだ、違うから」 「違うって?」 「まだあるんだよ。これで全部じゃない」  怪訝な目で見上げていると「また、今度教える」と言って、清正はどこか困ったような顔で、光をそっと抱きしめた。

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