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第61話

 夕方、ニュース配信された「薔薇企画新ブランドフェス」――コンペにはいつの間にかそんな名が付けられていた――の大賞作品の映像は、瞬く間にSNSで拡散され、日本中の人の目に触れることとなった。  ――とにかく、めっちゃ綺麗!  ――初恋の切なさを思い出した。  ――悲しいのに情熱的。泣きたいくらい誰かを愛したい。  ――深淵。最もやわらかく美しい場所にある記憶。  さまざまなコメントが、画像に添付されて広がっていった。  透明な下地にブルーと銀でデザインされたシリーズ商品は、特に薔薇の細工の細緻な美しさが話題になった。  ドーム型の照明器具は上部に零れるような薔薇の細工が嵌め込まれ、下部に光を透過し拡散するブルーの石が埋め込まれている。灯りを点すと、夢のように美しい空間が器具の中に現れた。同時にきらきらと、木漏れ日や水際を思わせる光が室内を照らした。  大賞の発表直後から、どんなに高くてもいいから欲しいという問い合わせが薔薇企画に寄せられ、堂上はふだん以上に上機嫌になったという。  いくらかけても電話に出ない受賞者からのコメントは割愛された。 『捕まえたら馬車馬のように働かせるからね』  口調は軽いのに、内容が重すぎる伝言が留守番電話サービスに残され、インタビュー数本と新ブランドの商品企画のための予定がびっしり書き込まれたスケジュールが、パソコンのメール宛てに送られていた。  ラインには、井出から汀の安否を尋ねるメッセージが届いていて、これには丁寧な礼とともに、無事見つかった旨返信しておいた。    『Under the Rose』  そのタイトルの受賞作がホームに設置されたネットニュースの液晶に表示されると、その瞬間、清正は階段を駆け上がっていたそうだ。  光の手を掴んで下り電車に駆け込むと、ずっとその手を離さないまま、十分間のどかな振動とともに走る電車に揺られ、さらに十分の道のりを速足で歩いて上沢の家の門をくぐる。玄関に入ると、ドアが閉まり切るのと同時に光にキスをした。 「光……」  一度だけ離れて光の名を呼び、後は何度も何度も唇の角度を変え、光の舌を甘く吸い上げた。  わけがわからないまま、光は清正の首に腕を回して、夢中でそれに応えた。言葉で伝えることはできなくても、何かが清正に届いたのだと思った。  同時に、どんなに深く口づけられても、足りないようなもどかしさを覚えた。  もっと、清正の近くに行きたい。  しっかりと抱きしめられて、深いキスを交わしていても、もっと、足りない、と感じた。  清正が欲しい。身体の全部で溶け合いたい。  そう強く願った。 「清正……」  キスの合間に、名前を呼ぶことしかできない。願いが届かないもどかしさが苦しい。  口づけを解くことなくリビングを抜け、そこらじゅうに脱いだ服を落としながら、階段を上がってゆく。聡子の寝室だった広い部屋で、汀と清正のダブルベッドに押し倒される。その頃には、どちらも下着と靴下しか身に着けていなかった。  清正が光の靴下を奪い去り、光は清正の右足だけ脱がせた。  下着はまだ着けていた。それがむしろいやらしく思える状態で、それぞれの欲望が布を押し上げていた。苦しそうに膨らんだ場所を重ねて擦り合わせる。上部から互いの先端が現れ、敏感な部分だけが直に触れ合った。  堪えきれずに甘い声が零れた。 「あ、あ……」 「光……、ん……」  腰を押し付け合って猛るものを合わせる。  互いの下着に手をかけて下ろし、切羽詰まったように飛び出してきたものをぶつけ合う。重ねて指で包むと、どの指がどちらの指かもわからない刺激に、腰の奥でマグマのような熱が沸き上がった。 「あ、ああ……」  蜜を滲ませた先端をゆるゆると擦り合わせながら、清正は光のものだけを指で摘まみ、「舐めさせて」と囁いた。  こんなふうに、と示すように口の中に差し入れた舌で、光の舌を包み込む。周囲をゆっくり舐められて、あんなところにこんなことをされたら、気持ちよくて死んでしまうと思った。  そう思ったのに、光は望みを口にしていた。 「……して。清正……」  ゆっくりと唇が身体を下ってゆく。  鎖骨を舐め、左右の花びらをひとしきり味わい、指と唇の両方で甘く刺激する。 「あ、あ……ん」  背中が反り、身体が跳ねる。もっと、とねだるように薄い胸を突き出す。みぞおちを滑り下りた舌が、臍をするりと舐めて、さらにその下へと這ってゆく。  清正のつむじを見下ろしていた光は、黒い頭が中心に近付くにつれて身構えた。まるで「早く」とねだるように屹立した雄を、清正が右手の親指と人差し指で摘まんだ。そして、ふいに視線を上げて光と目を合わせる。  見つめ合ったまま舌の先をちろりと覗かせる。それを先端に当てらえると、「ああ……」と泣きそうな声が零れた。  自身が触れられる様を見ていると、頭の中が真っ赤に染まって、頬が熱くなった。 「あ、あ……」  立てた膝が不安定に動く。舌先で先端を舐めていた清正が窄めた口に鈴口を含んだ。 「ああ……っ」  光の唇も開いてゆく。どうしていいのかわからず、自分の指を咥えてぎゅっと噛んだ。  ねっとりと舌で刺激され、きつく目を閉じながら頭を逸らせる。  足の間で清正の頭が上下する度に、強い射精感が込み上げる。たまらない気持ちになって黒い髪に指を絡めた。 「あ、ああ……、あ……」  上半身をくねらせて官能を逃しながら、顎を引いて下腹部に目をやる。まるで自分の手が清正の頭を掴んで陰部に押し付けているように見えた。背徳の匂いが悦楽に変わってゆく。  どうにもならない気持ちが言葉になって零れ落ちる。 「あ、あ、でちゃう……、ああ……」  ダメ、と目を閉じて小さく叫んだ瞬間、清正の口から飛び出した雄芯が弾けた。白く濁った体液が、薄い腹の上に飛び散る。清正の顔にも、それは勢いよくかかった。 「あ、あ、……、ごめ……」  息を乱しながら謝る。かけてしまうとは思わなかったのだ。  いたたまれない気持ちで真っ赤になっていると、左手で顔を拭った清正がにやりと笑った。光のものをまとった親指をペロリと舐める。  心の中で悲鳴を上げた。  自分が食べられたような、怖さと同等の奇妙な歓びが背骨の中心を走り抜けた。  直後のキスは少し苦く、そのことにもまた淫靡なうしろめたさと悦びが生まれる。  光が放ったものを、清正の指が掬う。それをまとった人差し指が尻の孔に押し当てられた。  滑りを塗り込むようにされて「くすぐったい」と抗議すると、清正は首を傾げて笑ってみせた。

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