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第62話

「光、ここ使うの、知らないんだよな」 「どこ?」 「お尻の孔。ここに、俺のコレを、挿れる」  熱いものを指の中に握らされ、噛んで含めるように言われた。けれど、想像しただけでそれは絶対に無理だろうと思い、光は眉をひそめた。 「はいんないと思う」 「はいんなくても、挿れるの」  えー、とさらにしかめた顔にいくつものキスが落ちる。 「光、おまえマジで可愛い。めちゃくちゃにしたい」 「な、……っ」  何を言っているのだと思うが、清正があまりに幸せそうに笑うので、よくわからないながらも光は清正を許した。 「清正……」  腕を伸ばして抱き付く。  清正の肌は温かく、少し湿っていて気持ちいい。キスがしたくなって唇を寄せると、小さいキスと、軽く唇を舐めるキスと、深くて官能的なキスが繰り返し与えられた。 「清正、好きだ……」 「うん」  ぎゅっと抱きしめられて胸がいっぱいになる。光の髪を清正が何度も撫でた。 「光……、あの時、起きてたんだな」  あの時というのは、おそらく十二年前の五月のことだ。  薔薇の下の記憶。 「うん」 「俺、どうしても光の唇に触れてみたくて、寝てるとこ盗んだ」 「うん」  胸の奥がズキリと痛んだ。同時に、笑みが零れる。  ああ、あれは夢などではなかったのだ。そう思った瞬間、心が、羽根が生えたように軽くなった。 「キスをして、それから俺は、これはヤバイと自分に言い聞かせた。これ以上はダメだと思って、逃げるように目を逸らしてきた。なのに、おまえは……」  Under the Rose――薔薇の下には秘密がある。 「あんなに綺麗なまま、大事にしまっておいてくれたのか……」  零れるように咲く薔薇の花。その下に、光は一番綺麗で大切な秘密を隠した。  誰にも奪われないように。  誰にも壊されないように。  名前さえ付けずに、鍵をかけて封じた。  ずっと、見ないふりをしてきたのは光も同じだった。それが壊れたら生きていけないと思ったから。  光が告げると、清正は「うん」と頷いて微笑んだ。 「綺麗だった」  作品のことを言っているのだと思った。 「清正……」  覗き込んでくる顔を両手で包む。清正の目がじっと光を見ている。  清正の黒い瞳が好きだ。  初めて会った日からずっと。  顔が近付いてくる。ギリギリまで綺麗な黒い光を見ていた。睫毛を伏せながら、清正の睫毛も唇もみんな好きだと思った。  口づけを繰り返すうちに、焦燥に似た渇きが大きくなる。  熱く張り詰めた清正の雄が何かとても大切なものに思えて、こんなに硬くなっているのは何かに埋め込むためなのだとふいに気付いた。  求める何かを抉り、突き立てるために必要な硬さ。これを自分の身の裡に欲しいと、ごく自然に思った。  暴れる猛りに指を絡めると、清正が苦しげに呻く。 「光……」  キスが深くなり、喉の奥まで舌を差し込まれる。 「ああ、挿れたい……。光が欲しい……。全部、欲しい」 「清正……」 「光の中に入りたい……」  ここから、と掴んだ尻を割り開かれ、固い蕾に熱を押し当てられる。  どんなに固く閉じていても、蕾は開かれるのを待っている。光もこの熱く硬いものが欲しいと思った。  舌で喉を突くような激しい口づけの合間に、清正に囁く。 「挿れて……。俺も、清正が欲しい……。清正と、一つにつながりたい……」  押し当てられたものが大きく脈を打って質量を増した。 「もう無理。我慢できない」  とろりとしたもので尻を濡らされ、人差し指が埋め込まれる。背骨の下のほうがもどかしく疼いて、光は呼吸を荒くした。  道を作るようにゆっくりと指が行き来する。曲げた指が隘路を広げ、当たると切なく疼く場所を何度も掠めた。 「あ……、あっ、そこ……」  びくびくと魚のように身体が跳ねた。  指が裡筒を広げる間、光は清正にしがみつくようにして未知の感覚に耐えていた。宥めるようなキスがいくつも落とされ、清正の指の数が増えてゆく。  三本含まされても痛みを感じなくなった頃、刺激を与えていたそれらが唐突に去っていった。 「清正……」 「大丈夫だ」  何が、と問い返す間もなく、熱した鉄のように硬く熱い塊が、その場所に押し当てられた。開かれた花の中心に、つぷりと音を立てて潜り込んでくる。 「あ……」  先端が入ると、一度動きが止まった。  ゆっくりと進んで少し戻る。ゆるゆると馴染ませるように細かく前後しながら、長い杭が埋め込まれる。 「ん……」 「苦しいのか」 「だい、じょぶ……、あ……っ」  一度手前に引かれて、同じ場所まで素早く戻される。突くような動きに、開いた膝が不安定に揺れた。 「あ、あ……」  右足を掴まれて高い位置に上げさせられると、つながった場所が視界に飛び込んできた。ゆるやかに前後する清正の長い雄が光の白い尻にのみ込まれてゆく。  骨を割り開かれるような痛みが腰に走った。 「あ、あ、ああっ!」  徐々にストロークの距離が長くなり、いっぱいに開いた足の間で、清正が深い位置まで自身を埋め込んだ。きつくシーツを掴んでいた拳を解いて、清正の身体に腕を伸ばす。覆いかぶさるように身体を寄せて、清正が口づけを落とした。 「あ、あ、……っ、ん……っ」 「光……、中、すごくいい……」  腰を軽く揺すられて、身体の奥がじわりと反応した。  清正とつながっている。そう理解するとどうしようもなく嬉しくて、痛みが快感に変わってゆく。 「清正……、あ……」  前後に突かれるうちに、うなだれていた光のものが芯を持って勃ち上がってきた。 「いい?」 「わか、……な……。あ……」  光のものが兆していくのを見下ろしながら、清正が腰を揺らす。  細かく前後したり大きなストロークで奥まで突いたり、まるで味わうように光の中を行き来する。光はようやく、清正を近い場所に感じることができた。  光の身体の中に、清正の身体がある。  鋭く突かれる度に頭をもたげてゆく光のものに、清正の目は歓喜の色を浮かべた。 「勃ってきた……」 「バカ……、あ……っ」  ゆっくりと深い場所まで突かれて、身体が快感の芽を拾い始める。深さを保ったまま速度が上がると、硬く育ち始めていた陽茎は、しっかりと芯を持って天を仰いだ。 「あ、あ、あ、あ……」 「光、可愛い」  腰を前後させながら、額や頬や鼻の頭にキスをする。髪を撫でられ、唇を重ねられると、たまらない気持ちになって清正にしがみついた。 「清正、好きだ……」  キスの合間に告げると、身体の中の熱塊が質量を増す。 「俺もだ」  腰の動きが大きく複雑になり、光は何度か悲鳴を上げた。 「ああ……あっ、あ……っ、ああ……」 「光……、光……」  深く強く突き上げられて、痛みは甘い疼きに変わってゆく。清正がここにいるのだと思うと身体が歓喜に満たされてゆく。 「清正……、ああ」  汗で滲む視界。清正の顔を捉えると、わずかに開いた唇の淫靡さにくらくらした。そこから漏れる甘い吐息に、身体中が熱くなる。  高い鼻梁やシャープなラインを描く頬に汗が光っていた。頭を軽く振り上げて、さらに深く光の奥まで楔を突き立てる。腰が骨にぶつかる。 「ああ……っ」  大きく引かれ、深い場所まで一気に貫かれて頭の芯が火花で埋まる。  すっかり芯を持った光の雄は、激しく突かれる度に腹を打ち、大きく揺れて何度も跳ねた。 「なんか、おまえのちんちん、エロい」 「お、おまえのほうが……っ」  こんなに太くして、人の中を抉っておいて。息も絶え絶えに訴えると、さらに大きく腰を使われ、また悲鳴のような嬌声が上がった。 「ああ……っ」 「エロくて、可愛い」 「あ、清正……、あ、あ……」 「光、……っ」  抜き差しするスピードが上がり、徐々に解放の高みへと駆け昇り始める。必死にしがみつくと、光の腕の中の清正がそこらじゅうに口づけの雨を降らせた。  好きだ、好きだ、と囁くようにキスが繰り返される。  その間にも強い抽挿が繰り返される。 「ああ、清正……、あ、……」 「光……」  深い場所を大きく一度突き上げられて、背中が弓のように反り返る。 「あ、あ、あ、ああ、あ、あ……」 「光……っ」 「あ、あ、ああああ――――…………」  温かい飛沫が光の中で弾けた。清正の手に追い上げられて、光も二度目の精を放つ。 「あ、あ……」 「好きだよ、光……、好きだ」 「清正……」  荒い呼吸を吐いて、瞼を閉じた。  きらきらと零れるように咲く五月の薔薇が、そこに浮かぶ。清正と光を祝福するように、一面に咲き乱れている。  まだ胸を上下させたまま、一番大事なものに腕を伸ばす。 「清正……」  好きだ。  抱き寄せた温かい身体に、光自身が包まれる。一番大切で綺麗なもの。  失えば生きられない。  今までも、これからも、光は清正なしでは生きられない。

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