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好きの理由
「師匠……」
俺は顔を見ようと師匠に近付いていく
見たい…どんな顔してるんですか……
覗き込もうとした瞬間,伸びてきた師匠の手に顔を鷲掴みにされてしまう
「あぅぅ?」
「……」
これじゃ顔が見れない…
「師匠,さっきの言葉どういう事ですか…幸せにするとか,俺だけとか……」
顔が見れないから今度は質問をしてみる
暫く師匠は黙り込んでいたけど息を吸う音が聞こえてきたので俺は大人しく待ってみることにした
「そのまんまの意味だ…お前は賢いだろ,だから分かるだろ」
と誤魔化されてしまった
俺はムッと唇を尖らせる
「俺にだって分からないことはあります……師匠の気持ち…言ってくれなきゃ分かんないです」
「……ッ」
俺の言葉に師匠は何やら反応があったみたいだが目の前が師匠の手以外何も見えない俺には微かに感じとる程度にしか分からなかった
それでも師匠は何か思うことがあるのか,また黙り込んでしまった
暫くしてから…随分と長いこと経ってからだと思う
突然師匠の手が離れていき俺はやっとの事で師匠の顔を見ることが出来た
師匠は真剣な眼差しで俺を見つめていた
「正直お前にどう伝えるかとか散々悩んだ。今だってまだ悩んでる
けど,お前が求めるならどんなものでも伝えようって思う。俺が何者とか,お前が何者とか関係ない。俺はお前が好きだ…」
俺は顔が熱くなるのを感じた
だって……夢にも見るのもおこがましい程なのに…こんな事……
「いつ…から,ですか?」
「多分言っても分からんだろうけどな…お前が俺に弟子入りする前からだ」
「え……」
俺は目を見開いて動けなくなってしまう
そんな前から……?一体なんで?
もしかして,他の人と勘違いしてる…?
「やっぱり,分からんって顔だな
それもそうだろう。お前にとって些細ない事だったかもしれない。忘れてしまってるのは仕方がないことだろうな…」
「どういう事ですか…」
「……半年前,俺は怪我をして街外れの民家の畑近くで倒れてた。
怪我といっても血が物凄く出てたわけでもないし隠してたから大抵の奴は素通りするか鬱陶しがった顔をして嫌味の1つや2つ落として行った
けどお前だけは違った。俺が大きめの岩に背を預けて休んでると近付いてきて『具合でも悪いんですか?』って声を掛けて来た……」
「あ……」
心当たりはある……でもそれが師匠だったなんて思ってもいなかった…
「近付くな,とか色々あしらったし多分暴言も吐きまくったと思う。でもお前は一瞬泣きそうな顔をしてからそれを堪えてから真剣な顔で俺にこう言った
『怪我を手当させてください。それが終われば殺すなりどこかに行くなり好きにしてください』とな」
それは…あの時から既に命を捨てる気で居たから言えたことであって…
「その後も俺の手当を終わらせると満足気に笑ったお前の顔を見て初めて本当の意味で人に優しくされた気がした。
更には世話焼きなのかご飯も寄越して服も直してくれたな…俺の周りは利益を求めるがために俺に媚を売る奴が多かった。
だからお前が初めてだったんだ。無償で人に親切にしてる奴も,初めて好きだという感情を抱いた相手も…そういう奴に出会ったことが……」
「そんな…無償で人に親切にするのは俺以外にも5万と居ます…そんな当たり前の様な…」
「それでも…俺にとってはお前が初めてでお前しか居なかったんだ。クソみたいな環境に産まれて,鬱陶しいだけの人と日々だった……」
だめだ…やばい……
「レイラ…泣いてるのか?」
師匠に顔を両手で挟まれて上を向かされる
どうしよう…嬉しい…こんな俺でも誰かに好かれることが出来るなんて…
「ししょ…俺……こんな幸せでいいんでしょうか…」
俺の言葉を聞いて師匠は一瞬眉を下げてから俺を抱きしめた
師匠の胸元は暖かくて優しくて…心地が良かった
「お前が一族の間で嫌われてるのも知ってる
調べた…髪の色が違うってだけで不幸を呼ぶ者とか言うクソみたいな一族だと思った…
けどそんな事ない。お前はそう言い聞かされて育ったからそう思い込んでるだけだ。お前は決してそんなんじゃない。幸せになっていいんだレイラ…」
涙が止まらなかった
俺は初めて誰かに必要とされた…
それが好きな人で…しかも両想いで…
こんな幸せ二度とないって思える程,俺の心は満たされていた
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