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第53話 学園祭編1

 俺、土方雪乃に同僚のイケメン彼氏が四人も出来てから、あっという間に学園祭当日まできてしまった。  俺のストーカー事件をきっかけに始まった俺と山南陽愛くん・藤堂春樹・沖田秀一・斎藤涼介五人のシェアハウス生活もなんだかんだと続いている。  一応、理事長からの借り物件だから、みんなと相談しなくちゃとは思いつつ、学園祭準備の忙しさに追われてそのままになってしまっていた。  文化部の陽愛くんに涼介、オキの三人はもちろん、春樹も担任を受け持つクラスの企画が理事長が選ぶ総合的なエンターテイメント賞に選ばれたおかげで、何かと忙しそうだった。  因みに一位は逃したものの、俺のクラスは芸術賞、陽愛くんが副担任の近藤先生のクラスは文化賞をもらい、ちょっとだけ出し物が待遇された。  そんな中、みんながそれぞれ忙しかっただろうに……四人からの愛情表現は相変わらずだった。  まあ、今まで俺が散々焦らせてしまった自覚はあるので、四人の喜ぶ姿を見れるのは俺としても嬉しいことなんだけど……俺の身体への負担を考えると、そこは唯一不満が残るところではある。  十代の学生じゃないんだからさ、そこは少し抑えようよ。どう頑張ったって、俺の身体が分裂するわけじゃないし、四対一はね。  あっ、当然ながら俺達の関係は学校の生徒はもちろん、同僚の先生方にもバレないように気をつけているつもりだ。  ただでさえ、俺達が付き合いだしてから陽愛くんが生き生きしてる時間が増えたとか、涼介の雰囲気が柔らかくなったとか色々と周りで言われ始めてしまった。  だけど、俺達の関係がバレた場合、恥ずかしいのは特に俺なんだもん……それだけは、みんなに気をつけるよう徹底して注意している。 「勿体ない話だ」  俺が目の前の男を眺めながらそう呟くと、俺の声が聞こえたのか、その男が聞き返してきた。 「なんのことです?」  言いながら王子の衣装を身につけたオキが俺へと近づいてくる。  そう、一番変化をしたのが実はオキだったりする。  オキはあの可愛い素顔を隠していた鬱陶しい前髪をバッサリと切ってしまったのだ。なぜかと聞いたら、今まで前髪と伊達眼鏡で素顔を隠していたのは、女性からの余計なアプローチを避けるためだったと説明された。 『今は雪ちゃんっていうちゃんとした恋人がいるからね、雪ちゃん本人に誤解されることなくはっきりと恋人がいるって断れるし。だったら、これからは雪ちゃんに俺のイケメンぶりをアピールしていくことにしました。ライバル達が強敵だから』  そう言ってオキにウインクされた俺が密かにときめいてしまったことは本人には内緒にしておいた。だって、それで本人に調子に乗られても困るし、他のみんなが拗ねたりするのも厄介だ。  まあ、そんなイケメン顔でオキの王子様姿なんて、そりゃあ女子生徒達が盛り上がるわけだよ。   「せっかくモテるのに、俺なんかを選ぶなんてさ……趣味悪すぎだろ」  周りに聞こえないように小声でそう言うと、オキは心外だとでも言うような表情をみせた。 「趣味悪くないですよ、今回の写真部の売上が証拠です。土方先生は男女問わず売れてます……男が買って何に使うのか考えると、嬉しくないけど」 「その格好で、そんなこと言うな! エロ王子!」  あからさまなオキの言葉に、俺はそこが教室だということも忘れて言い返してしまった。  すると、俺の声に周りの生徒が何事かと振り返る。 「あっ、いや……」 「何でもないから、みんなは準備進めなさい」  慌てた俺を遮ってオキがそう言うと、生徒達も素直に返事をして作業を進める。 「校内での発言には注意してくださいね、土方先生。いつも、自分で言ってることでしょ?」 「……すみません」  俺が安堵のため息を吐くと、オキにそう注意されてしまった。  素直に謝ると、オキが小さく笑って自分の唇へ人差し指をあてる。 「罰として後でコレね……もちろん、学校でだよ」  それがキスのことを言っているのだと気づいた途端、頬が熱くなってしまった。  次の瞬間、背後から生徒の声がかかる。 「オキ先生~、最終確認するから来てくださーい!」 「はいはい……じゃあ、後でね、雪ちゃん」  呼ばれたオキはすれ違い様に、俺だけに聞こえる音量でそう囁くと生徒達の方へと行ってしまった。 「見た目は王子……中身はオオカミかよ」  俺は去っていくオキの後ろ姿を見送りながら呟いた。  そもそも、なぜオキが王子服を着ているかというと、今回の学園祭で我がクラスが演劇をすることになっているからだ。  以前に近藤先生が言っていた理事長の特別待遇に俺達のクラスは芸術賞として選ばれ、演劇部の本公演の合間に繋ぎとして運動棟で「眠れる森の美女」を演じることになったのだ。  因みにエンターテイメント賞をとった春樹と涼介のクラスは体育館を使ってライブをしたり、自由に参加出来るダンスタイムを行う予定だ。  そして、文化賞としては陽愛くん達のクラスが「誠陵學校の歴史」をとても綺麗にまとめあげ、校内入口の一番広い場所に大々的に貼り出された。  でも、他のクラスはともかく、俺の所はオキが王子役だから話題になって賞貰えたようなもんだよな。  最初は俺が生徒から王子役を提案されたのだが、あまりに突然のことで、つい隣にいたオキに 「沖田先生の方が演技力あるし、絶対にいい! 俺には無理だから」 と、押し付けてしまったのだ。  文化部の顧問であるオキにクラスの出し物までやらせるなんて申し訳なかったが、今にしてみれば結果オーライだ。  芸術賞に選ばれた時の生徒達の喜んだ顔を思い出すと「雪ちゃんに頼まれたら断れない」と王子役を引き受けてくれたオキに感謝だ。  まあ、俺としても格好いいオキが見れて……ちょっと嬉しいし。  好きだと自覚した途端、俺も現金だよなあ~。  なんて考えていると、突然、何かが倒れるような大きな音と女子生徒の慌てた声が聞こえた。 「大丈夫っ?」 「誰か保健の先生呼んできて!」  途端に騒がしくなる現場に、俺も直ぐ様近寄る。 「どうしたっ!?」  輪の中心にはヒロイン役の女子を数人の生徒が心配そうに囲んでいた。  その中の一人が説明してくれる。 「移動させようとしたセットが倒れて、この子の足に……」 「大丈夫か?」  セットが当たったであろう箇所を見ると、少し赤くなっていた。  触ると多少痛みはあるみたいだが、立てない程ではないので骨には影響がないかもしれない。  それでも、安易な判断は出来ないので俺は女生徒を椅子へと運び、そこに座らせた。 「とりあえずは保健の先生に見てもらって様子をみよう。足以外は大丈夫か?」 「は……はい」 「そっか」  小さくそう答えた生徒に少し安心した俺は励ます意味も込めて笑顔を向けた。  そして、周りの生徒にも確認をする。 「他にぶつかった子とかはいないか?」 「人への被害はないけど……せっかく山南先生が作ってくれたセットが……」  言われて倒れたセットに目をやると、倒れた時に削れたのか一部の色がとれていた。 「どうしたの? 大きな音がしたけど……」 「オキ、すぐに陽愛くんに頼んでコレ直してもらって!」  ちょうど騒ぎに気づいたオキが顔を出したので、俺はすぐさまオキへと頼む。  オキも周りの様子から状況を理解してくれたのか、急いで陽愛くんを呼び出してくれた。

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