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第13話

下を向いてすべて見られたかもしれないという羞恥に堪えていると、横からクスクスと笑う声が聞こえてきた。 「フッ、お前を風呂に入れたのも着替えさせたのも俺だがそんな見てない。それに男同士だし別にいいだろ」 笑いをかみ殺しながら言う彼に、ボクの顔は見る見る間に真っ赤になる。 確かに男同士だから恥ずかしがる必要はないのかもしれないけれど、この人はイジワルだと思った。 ボクは赤くなった頬をぷくっと膨らませたが、すぐに身体の至る所を治療された痕跡があるのを見つけ、考えを改める事にする。 きっとこの人が手当てしてくれたのだろう。 「とりあえず隣の部屋行くぞ。飯、用意してある」 そう言うと彼は当然のように昨日と同様、ボクを幼い子供のように片腕だけで抱き上げ移動し始めた。 突然の事に動揺してパタパタと足を振って慌てふためく。 でも足元に何だか違和感を感じて見てみれば、あの忌まわしい足枷が消えていて変わりにキレイな包帯が巻かれていた。 「………ぁ………」 たぶんそれは嬉しいことのハズなのに、ワケもなくボクは急な喪失感に襲われる。 長年そこに有り続けたものが消え、それを寂しいと思う日が来るなんて思わなかった。消えてなくなればいいのにと何度となくソレの存在を呪ったのに……。 だってそれはボクの自由を奪う象徴だったから。なのに今のこの感情は何なのだろう?自分でもよく分からなかった。 唇を噛み締めながら俯き、急に黙り込んだボクを訝しんだ彼が顔を覗き込む。そしてその目線の先に気づいた彼は、けれどもボクの戸惑いを笑ったりはしなかった。 「……誰しも急激な変化は戸惑いを覚えるものだ。お前の感情は間違っちゃいない」 その言葉にハッとし、同時に胸につかえていたものがストンと落ちる。ゆっくり顔を上げると目が合った彼がニッと口端を上げた。 「直に慣れる。お前の時間はこれから無限にあるんだからな……」 「う……ん……っ、うん……っ」 気づけばボクはポロポロと泣いていた。 本当に彼と巡り会えて良かったと心の底から思った。もし彼に出会えていなかったら、今のこの幸せな気持ちは得られなかったかもしれない。 そう思うと今のこの時が堪らなく愛しく感じた。

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