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第18話

それを見た瞬間ボクは自分以外に向けられた暴力に対して萎縮してしまい、身体を小刻みに震え上がらせてしまった。 その急激な変化にいち早く気づいた白銀の髪の男の人は、ボクの両目を片手で塞ぎもう片方の手で背中を擦ってくれる。 でもボクの異変に気が付いていない二人は増々声を荒げ、ソファの前のガラステーブルがガタンと大きな音を立てた。 「うっわ意外! 流星“年功序列”なんて難しい言葉知ってたんだぁ?」 「……テメェ、マジでブッ殺ス!!」 虎汰の一言で一触即発な空気になり、ボクは泣きそうになりながら目の前の袖を握り締める。 だけど周りの人たちは誰もそのケンカを止めようとしない。何故だろうと思っていたら、左側のソファから怒りを滲ませた低い声が発せられた。 「あのさぁ、いい加減めんどくさいし先に進まないからソレ後でやってくれる?」 その意外な声にボクは驚く。 そして目を覆う手を少しだけ下げてちらりとそちらを窺えば、声を発したのはやはりあの無口な茶髪の男の人だった。 彼はボクと目が合うとほんの少しだけ、こちらに向かって口許を上げ微笑んでくれる。 「俺の名前は()(じょう) (さく)()17才、高2。よろしく」 そう端的に自己紹介を済ませると彼、朔夜さんは“後はご勝手に”と言わんばかりにテーブルを元の位置に戻し、その上に置いてあるノート型PCに目を移して操作し始めた。 物凄く速い指の動きにボクはある意味驚いてしまう。だけど伏し目がちな横顔はとてもキレイだった。 目の下に薄い隈ができていてちょっともったいない気がしたけど、睫は長いし顎もシュッとしていて尖っている。 瞳は色素が薄いのか髪と同じくキレイな茶色だった。肌も色白だし、朔夜さんはどちらかというと中性的な感じだ。 しかしボクがどんなに不躾にガン見しても、彼は既にPCに集中しているのかまったく気にした風もなく、怒られもしなかった。 「朔夜はPC中毒なんだ。愛想がなくてごめんね?」 そうボクに教えてくれたのは和之さんだった。 朔夜さんは彼の幼馴染みなんだって……。 逆に謝って貰ってこちらが申し訳ない気持ちになり、慌てて首を横にプルプルと振った。 その間も朔夜さんは黙々とPCに向かって何か作業をしている。まるでここには自分以外は誰も存在していないかのような振る舞いだ。 ボクはボーッと無心で彼を眺めていると、たくさんこの部屋にあるドアのひとつからノックする音が響く。 すると予め誰かが来る事を知っていたのか、和之さんは静かに席を立つと笑顔で皆に「続けてて」と告げ、ドアの向こうへと消えた。 「つかクソ! 朔夜にまで先越されたじゃねーかっ!!」 「流星がボサッとしてるからだよ。てかさー、別に順番なんてどーでもいいじゃんか」 一瞬の中断にも気に止めず、またも悔しがる赤い髪の男の人に虎汰は遠慮なく突っ込む。 ボクも何故、彼がそこまで悔しがるのかが分からなかった。 誰から先に紹介されても名前は必ず覚えるし、聞いた順番で贔屓したりするつもりは毛頭ない。 だけど彼は真顔で……、 「早くこのちびに俺の名前を呼んで貰いてーじゃんか!」 と、そんな事を言う。 あまりにストレートな言葉にボクは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

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