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第19話
それを見て今度は虎汰が不機嫌になる。
ぷくぅっと左頬を膨らませてそっぽを向いた。
「だったらさっさと自己紹介すれば? もう誰も邪魔する奴はいないんだしっ」
投げやりにそう言うと虎汰はソファの背もたれに身を沈め、両手を頭の後ろで組んで固く目を閉じる。
寝ちゃったのかと思ったけど、彼の寝息は聞こえてこなかった。でも虎汰の言葉にボクは首を傾げる。
邪魔する人はもういないって言ったけど、まだ隣りに座る彼の名前を聞いていない。
早く知りたいって思うのにボクを膝の上に置く彼は、注ぐ視線を感じていながら顎で赤い髪の男の人を向くよう促した。
それに素直に従うと赤い髪の男の人は嬉しそうに微笑み、中断した自己紹介を再開する。
「俺の名前は陣馬 流星 だ、年は17で高2! バイクの運転じゃ誰にも負けない自信があるぜ?」
そうワンコのように意気揚々と言う流星くん。
まるで見えない尻尾がブンブンと勢いよく振られているように見える。
外見は背も高いし体躯もしっかりしてて怖いのに、思わずカワイイと思ってしまう。顔も黙っていればカッコイイのに、彼は残念なイケメンさんのようだった。
「ほう? それは聞き捨てならないな。この間の俺との勝負、てっきり俺が勝ったと思ったんだけどな」
流星くんのセリフに間髪入れず、揶揄するように言ったのは和之さんだった。先ほど誰かに呼ばれて出て行ったのにいつの間にか戻ってきていて、ちゃっかりそれを聞いていたらしい。
でもその自信に満ち溢れた眼差しは嘘を言っているようには見えなかった。すると流星くんがあっと声を漏らし、何事かを思い出したのかバツが悪そうに顔を歪めた。
次いで言い訳しようとして、でもそれは男らしくないと思ったのか開き掛けた八重歯が覗く口を閉ざし、もごもごとする。
「まぁ単車の知識ならこの中の誰よりも、一番熟知してると認めてやってもいいけどね……」
あまりの消沈ぶりに意地悪が過ぎたかと苦笑し、和之さんが少しだけどフォローする。途端に流星くんはパァッと顔を綻ばせ、満足そうにうんうんと頷いた。
――だけど、
「調子ノッてんなよっ、バカ流星! 俺だってバイクの知識なら誰にも負けねーっつーのッ!!」
虎汰が閉じていた瞳をこじ開け、ガバッと腕で反動をつけて起き上がった。
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