21 / 405
第21話〜ボクは何者ですか?〜
―――白銀 煌 騎 、か……。
彼に相応しい名前だと思った。
欲目でそう思ってしまうのかもしれないけど、大事に彼の名を頭の中で反芻していると、真上からクスリと笑う声が聞こえた。
「俺の名を気に入ってくれたのは嬉しいが、そろそろ俺たちもお前の名前が知りたい。聞いてもいいか?」
「―――え!? あ、名前……えと…ボクの名前っ」
どうやらボクは微笑みながら口に出して反芻していたらしく、周りの皆もクスクスと笑っている。
それに浮かれ過ぎて肝心な事を忘れていた。
ボクはまだ彼らに自分の名前すら名乗っていなかったのだ。
でも名前……ボクの名前……。
「…………ぁ………」
長い間誰からも呼ばれず、また自身で名乗る機会すらまったくなかったボクは、自分の名を忘れてしまったらしい。
辛うじて覚えてるのは幼少の頃の愛称だけだ。
そんな事があるのだろうかと必死に思い出そうとするけど、頭の奥から鈍痛がして結局は思い出せず断念してしまう。
俯き加減にその事を素直に打ち明けると、彼らは複雑な表情をした。
「そっか、それじゃ子供の頃の呼び名は何て言うの?」
気遣ってかそう和之さんが尋ねてくれたが、ボクは喉が詰まってしまってなかなか声が出せない。
皆と同じように自己紹介もできない自分が不甲斐なくて、居たたまれない気持ちになって完全に下を向いてしまう。
すると煌騎が慰めるようにボクの頭を撫でた。
「心配するな、俺たちが必ずお前の名を取り戻す」
「そうだよ、朔夜ならPCでチョチョイのチョイだから! 大船に乗ったつもりでいてね」
「……う…うん、ありがとう」
虎汰も明るく言って励ましてくれる。和之さんも流星くんもニッコリ笑ってボクを元気づけてくれた。
だけど朔夜さんだけは難しい顔をしてPCから目を離そうとしない。
暫くカチャカチャとキーボードを長い指先で叩いていたけど、遂には天井を仰いで「ア゙アアァッ、クソッ!」と奇声を上げ頭を掻き毟る。
只ならぬ雰囲気に一同は一斉に朔夜さんに目を向けた。
「どうした珍しいな、朔夜が苦戦してるなんて……」
事の深刻さを察し、流星くんが言葉を選びながら声を掛けた。
けれど朔夜さんは苦虫を噛み潰したような顔をし、彼を一瞥しただけで再度PCに向き直る。
ともだちにシェアしよう!