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第32話
「んじゃ、とりあえず行こっか! そろそろ時間もヤバいし……」
静かに様子を見守っていた虎子ちゃんが口を開く。確かにもう出ないとせっかくお店に着いてもゆっくりできない。
でも虎汰は訝しげな眼差しで虎子ちゃんを見やった。
「ちょっと待てよ。なんでお前も当然のように一緒に行こうとしてんだよ」
「………だな」
険しくなった表情そのままに、二人は彼女に向き直る。納得がいかないという顔だ……。
対して虎子ちゃんは“今さら何言ってんの?”というような表情で二人を見下す。
「私はわざわざ和之さんから頼まれて戻って来たの! チィの買い物に付き合ってやって欲しいって!! あんたたちだけじゃ頼・り・な・い・か・らッ!!」
根回しの良い和之さんはどうやらここを立ち去る際、あらかじめ虎子ちゃんに連絡を入れてくれていたようだった。
ボクの物を買い揃えるのなら、やはり気配りのできる女の子の方がいいと考えたのだろう。車に向かうまでの間に虎子ちゃんはそう教えてくれた。
その言葉には虎汰も流星くんも何も言い返せない。悔しそうに唇を噛みながら虎子ちゃんを睨んでた。
「ふふん、残念だったわね♪ 」
勝ち誇ったように鼻を鳴らすと後部座席のドアを開け、座り心地の良いシートにゆったりと腰を下ろして長い脚を組む。
反論の余地がない虎汰たちは、不満げに唇を尖らせて目線を逸らした。
「……んだよ、この展開。やっぱ納得いかねぇ」
「右に同じく……」
まだぶつぶつと小声で文句を言う虎汰に、流星くんがこれでもかというくらいブンブンと頷き返す。
ボクはそれが何故だか無性におかしくて、クスクスと笑った。
「………まぁチィが笑ってるから良しとするか」
「ハァッ……だな」
苦笑いを浮かべる二人にボクは更に笑みが深くなる。何だかんだ言ってやっぱり二人は心優しい男の子たちだと思った。
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