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第47話

奇しくも跡目が亡くなった数日後、身体の弱かった母親は娘の誘拐もあって心労が祟り夫の後を追うように息を引き取っていた。 両親が共に亡くなった以上、娘が本物かどうかなんて誰にも確認の取りようがない。親父は事件後に初めて自分に孫がいると知ったのだから……。 その後ガキだった俺の力だけではどうすることも出来ず、月日だけが無駄に過ぎていった。 だが昨夜チィが俺の前に現れ事態は変わる。 すべては思い過ごしなのかもしれない。アイツは自分の名を覚えていないと言うし、ガキの頃は“チィちゃん”と呼ばれていたという。 面影や仕草などもすべて似ていると思ったが実際は性別が違い、長い年月が俺から確信を遠ざけていた。 しかしチィはあの“女”と似過ぎている。 おそらく同じ環境で育っていれば、今以上に二人は見分けがつかないほど瓜二つとなっていただろう。 けれどもすべては臆測の域を出ない。その為、今日は親父と会って何か情報が引き出せればと密かに期待していたのだが……。 遅くに料亭へ現れた親父の後ろには、何故かあの“女”の姿があった。 しかも満面の笑顔で……。 一瞬だが俺の背中に嫌な汗が流れる。 「フフッ、やだわ煌騎ったら人のことをまるで幽霊でも見たように見つめて……、どうしたの?」 艶やかな着物姿で現れた“女”は鈴の音のようにクスクスと笑い、俺の不様な顔を揶揄した。自慢の長い漆黒の髪はそのままに、厚い唇にだけ真っ赤な口紅が引かれている。 血色の良い肌は透けるように白く、その深紅の色を更に際立たせた。まるで生き血を啜ったようだと、思わず失笑してしまいそうになるのを俺はなんとか堪える。 コイツが跡目の忘れ形見で鷲塚の親父の愛孫、鷲塚(わしづか) 愛音(あいね)だ。 あの事件以来、鷲塚組で大事に育てられている。今となっては世襲制であるこの組にとって、コイツだけが唯一継ぐ資格を持つ後継者だからだ。 そして俺の許嫁でもあった。親父は跡目の遺言を律儀に守り、本気で俺と愛音を結婚させるつもりでいる。 恩義ある親父に仇で恩を返したくはないが、俺は正直この縁談には乗り気になれなかった。それは未だ疑惑が晴れないからだ。 愛音が本物の跡目の娘だと確証が持てたら、俺はいつだって結婚でも何でもしてやるつもりでいる。 もちろんそれが育てて貰った者の礼儀だと思うからこそだ。

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