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第48話

俺は愛音のからかう言葉に返事も返さず、黙ったまま彼女の後ろを見遣った。 「神埼(かんざき)なら来てないわよ。今日は撒いて来ちゃったの、フフ♪ 」 神埼とは愛音のボディーガード兼世話役のことだ。組内でもそれなりに地位ある男なのだが野心家で、俺が最も苦手とする類の輩だった。 その名を聞いてあからさまに嫌な顔をしていたのか、勝手に何か勘違いした愛音が拗ね始める。 「もうっ、突然押し掛けたからってそんな態度取ることないじゃない」 そう言ってよほど腹に据えかねたのか、ズカズカと大股で室内に入るなりボスッと上座の方に座った。せっかくの着物姿が台無しだ。 親父はそんな愛音を気にすることなく、自分の用意された席へゆっくりと腰を下ろすと手慣れた仕草で卓の上にある杯を取る。 そして当然のように俺に酌を求めた。俺は無言で徳利を持つと透明な液体を杯になみなみと注ぐ。親父はそれをグッと一気に煽った。 こちらも仕立ての良い和服姿だが60代半ばの恰幅の良い御仁が身に着けると、やはり貫禄の違いが浮き彫りになる。愛音は完全に着物に着させられている感じだ。 「………で? 話とはなんだ、煌騎」 すると親父の方から徐に話を切り出してきた。 さすがは腐っても鷲塚組の組長、勘の鋭さは年を取っても衰えないとみえる。 だが隣には予定外の愛音がいた。こいつに話を聞かれるワケにはいかず、仕方がなく俺は当初の目的である要点だけを話すことにした。 「ある拾い物をした。裏にデカイ組織が絡んでいるようだが親父には当分、目を瞑っていて欲しい」 「………ほう、自分で片を付けるつもりか。まぁいいだろう、好きにするといい」 「―――えっ………いいのか?」 思いの外あっさりと承諾を得て拍子抜けしていると、親父が意地の悪い笑みを浮かべる。マズイと思った時には遅かった。親父は嬉々として俺をからかい始める。 「なんだ、反対して欲しかったのか? ならば初めからそう言えば良いものを……」 「―――いや、いい。根回しも粗方は済んでいる。今回は終盤まで親父の出番もないだろう」 「そうか? なんだつまらんのう……」 心底残念がるクソ親父を何とか説き伏せ、自由に動く許可も得て俺は油断していた。親父の横で話を静かに聞いていた愛音が行き成り口を挟む。 「ねぇ煌騎さん、その“拾い物”って何かしら? 私はそちらの方が凄く興味が湧いちゃったわ♪ 」

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