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第50話
今の時刻は22:17―――…。
俺は溜まり場の倉庫にほど近い喫茶店を目指していた。あれから親父に酒を浴びるほど飲まされ、帰る間際もしつこく屋敷に戻って飲み直そうと誘われたが、やることがあると断って逃げてきた所だ。
目を盗んで休憩を入れたりしていたのでほぼ素面に近いが、さすがにバイクの運転は無理と判断して店に置いてきた。今は徒歩で移動中だ。
「明日はバイク取りに行かねーと……チッ、面倒くせぇ。下の奴らに取りに行かせるか」
と、そこまで考えて項垂れる。俺のバイクはチームで一番背の高い流星が乗るものよりデカいし重い。そんなバイクを誰が乗って帰れるというのか……。
おそらくあれを乗り回せるのは俺以外で和之くらいのものだろう。自業自得だが段々と腹が立ってくる。しかしちょうど怒りがピークに差し掛かる手前で、前方に洋風の洒落た店が見えてきた。
中ではチィが満面の笑みを浮かべて双子の両親、優子さんと虎治さんが作る飯を美味そうに食ってるんだろう。そう思うだけで自然と怒りも鎮まった。
急に足取りが軽くなった俺は、ニヤつく顔を掌で覆いながらチィの待つ喫茶店へと急いだ。
「随分と締まりのねぇ顔してんじゃねーか、白銀」
突如背後から声を掛けられ、ピタリと脚を止める。
聞き覚えのある声に辟易しながら振り返ると、そこにはここにいる筈のない男が立っていた。
愛音のボディーガード兼世話役の神埼 徹 だ。嫌な男に会ってしまった。オールバックにした髪と銀縁メガネが鼻につく、とにかくいけ好かない野郎だ。
四六時中愛音に張り付いていると聞いていたがどうしてここに? と頭を捻ったが、そういえば先ほどアイツが撒いてきたと言ってたなと思い出す。
「……愛音ならもう屋敷に帰ったぞ。こんなトコ彷徨いてていいのか?」
さも面倒くさそうに言ってやると、奴はフンッと鼻で笑いやがった。年下のガキの戯れ言と流されたようだ。やはりこいつとは反りが合わない。
愛音と結婚すれば正式に鷲塚組へと入り、奴は俺の下に付く事になっているが先が思いやられる。
「……何の用だ。俺もお前に付き合ってやるほど暇じゃないんだが……?」
「………フッ、」
痺れを切らせて尋ねればまた失笑……。
―――何なんだ、こいつ。
構ってられないと歩みを進めようとしたらまた声を掛けられた。
「……お悪 戯 はほどほどにしとけよ、次期“若頭”?」
そうたっぷり嫌味を含んだ口調で……。
それだけ言って気が済んだのか、神埼は俺に背を向けてそのまま去っていった。
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