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第51話

磨りガラスの扉を開けると頭上に吊るされたドアベルが鳴る。それに反応して店主の優子さんが笑顔で俺を出迎えてくれた。 「アラ、煌騎くんいらっしゃい♪ 」 彼女の声で奥の厨房で作業していた虎治さんものそりとこちらに顔を出す。久しぶりの訪問にも美月夫妻は嫌な顔1つ見せず歓迎してくれる。ここは俺たちはみ出し者にとって、第二の家とも言えるべき大切な場所だった。 「よう、久しぶりだな煌騎」 「ご無沙汰、最近は忙しくてなかなかこっちに顔を出せなくてワルかったな」 「虎汰たち来てるぞ? それから和之とあの出不精の朔夜くんも……」 虎治さんは楽しそうに言うと、店の奥の席を顎で指す。見ると虎子を含め“白鷲”の幹部メンバーが全員、忙しなくチィの食事の世話を焼いてくれていた。 こちらに背を向けているチィの表情までは分からなかったが、おそらく満面の笑みを浮かべているに違いない。知らずホッと息を吐く。 「あいつらにも言ったが随分と毛色の違うのを連れてると思ったら……なんだ、そういうことか……」 俺の顔を見て虎治さんは至極納得した顔をする。それには気付かないフリをして口端を上げ、またチィの方に視線を向けた。 「フンッ、シカトかよ。まぁいい、それより煌騎……」 急に声のトーンを下げ、虎治さんは真面目な顔付きになって俺へと向き直る。虎汰辺りからチィのことを聞いたのだろう。その顔は怖いくらいに真剣だった。 「チィのことだが大体のことは聞いた。だが本当に警察に届けなくていいのか?」 「それは俺も判断に迷ったが、警察内部に内通者がいる危険性があるからな」 「……なるほど、それほど厄介な相手ってことか」 彼の問いに俺は無言で頷いた。チィの存在が何故か厳重に闇に葬られていた事も考慮し、下した決断だった。 それにこれ以上チィを辛い目に合わせたくはない。危険と分かっていてチィの身柄を差し出すほど、俺もバカじゃないつもりだ。 「わかった、飯の世話に困ったらこっちに寄越せ。いつでも腹いっぱい食わせてやる!」 ニカッと人の良さそうな笑顔を零す虎治さんに、俺は頭を下げその時は頼むと笑みを返した。だが話が終わったとみるや、優子さんが背中を急かすように押してくる。 「煌騎くん、もう挨拶はいいから早くチィちゃんのトコに行ってあげて? さっきからあの子ずっと泣いてるの……」

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