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第52話

「―――チィッ!?」 傍まで慌てて駆け寄ると名を呼ばれ振り返ったチィの頬は、まるで縞リスの頬袋のように膨れ上がっていた。確かに優子さんの言う通り瞳には涙を貯めてはいるが……。 言葉をなくして暫し無言でチィを見つめる。 「あっ、煌騎ッ! コレ、美味しいよ!!」 先に我に返ったチィが満面の笑みを浮かべ、その手に持っている食べかけの唐揚げを俺の前に突き出す。呆気に取られながら周りを見やると皆、穏やかに微笑んでチィを見守っていた。 後ろを振り返っても優子さんはシタリ顔でクスクスと笑っているし、なんとなく状況を察した俺はチィの頭をポンポンと軽く撫で、良かったなと声を掛けてやった。 すると嬉しそうにコクンと頷き、また口の中に溜まったものをモグモグと噛み締めるように食べ始める。 そんなチィの両脇に手を入れるとヒョイと持ち上げ、今し方までこいつが座っていた場所に腰を下ろす。そして膝の上にゆっくりと降ろした。 その一連の動作を見てびっくりしたのは周りの方だった。鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに目が点になっている。だが俺は気にせずチィに話し掛けた。 「その唐揚げ、そんなに美味いか」 「うん! 煌騎も食べて?」 そう言ってチィは手に持った食べかけの唐揚げを目の前に差し出す。俺は迷わずそれを食べた。大口を開けて丸ごとペロリと口に放り込むと、チィは大きな瞳を更に大きくさせて目を見開く。でも次の瞬間には破顔し、嬉しそうに笑った。 「煌騎のお口、大きいねぇっ」 「……そうか?」 「うんっ、大きいっ!」 目を細めて屈託なく笑うチィは、何にも替え難く愛らしかった。俺にとっては最高の癒しだ。先ほどまでの疲れが一気に吹き飛ぶ。 「ちぇ~っ、また煌騎にチィ取られちゃったよ~」 「腐るな、虎汰。チィは初めから煌騎しか見てなかったじゃないか」 拗ねる虎汰に和之が慰めの言葉を掛けるが、それは逆効果だったようだ。口を尖らせてヤレ最初にチィを見つけたのは自分だだの、独り占めはズルいだの……。 尚もブーブーと文句を垂れる。しかしそれを一喝したのは前に座る虎子だった。 「あんたは黙って自分の唐揚げ定食でも大人しく食べてなさい! チィの幸せ邪魔したら私が許さないからねっ」 「あ~ぁ、もっとチィに構いたかったのにな」

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