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第54話〜ちょっと陽気なお医者さん〜

昨日はあの後ボクは一度も起きることなく、煌騎の腕の中で熟睡してしまったらしい。 目が覚めるとまたあの倉庫のベッドに寝かされており、そして当然のように煌騎はボクを抱き枕代わりに抱き締めて寝ていた。 びっくりしてモゾモゾ身動きしていると、目の前の彼がゆっくりと細目を開ける。 「………ん、もう起きたのか…チィ。まだ早い…、も少し寝てろ……」 寝起きの掠れた声でそう言うなり、煌騎は更にボクを強く抱き締めた。途端に彼から爽やかなシトラス系の良い香りが漂ってきて、胸がキュンとなって苦しくなる。 ボクは本当にこのままこの腕の中にいてもいいのだろうか……? 虎子ちゃんに言われてこの気持ちが何なのかわかった。でも同時に彼には既に決まった人がいると聞かされ、この恋は叶わぬものなのだと知る。 なら身分不相応だと諦めて、この気持ちを初めからなかった事にしてしまえばいい。諦めるのは昔から慣れている。 そう思うのにこの腕の温もりを知ってしまったから、どうしても諦めがつかなかった。 ―――もう少しだけ、ここにいてもいいよね? ボクは心の中でそう独り言ちる。躊躇いながらも目の前の胸にその身を寄せようとした時、行きなり部屋の扉が大きな音を立てて開いた。 ―――バタンッ!! 「二人共、起きているか~! 朝だぞ~♪ 」 「―――ふえっ!?……ぁ、」 部屋に入ってきたのは虎汰だった。昨日も似た経験をしたな、などと思う暇もない。 遠慮なくズカズカと中へ入ってきた虎汰は、こちらまでやって来るとベッドの上のボクたちをニタニタと見下ろす。 慌てたボクは目の前の胸に手を置いて、煌騎から何とか離れようと試みた。けれど彼は寝惚けているのか更にボクを抱き締め、離してくれそうにない。 「やっぱこれくらいじゃ起きねーか、酒飲んだ次の日の朝はいつもコレだからなぁ……。そだっ! チィが起こしてよ♪ 」 「―――ボッ、ボクがっ!?」 「うん!チィだと起きそうな気がするっ」 キラキラと瞳を輝かし、期待の眼差しでボクを見る虎汰。彼が無理ならボクでも結果は同じなんじゃとは思ったが、まるで純真無垢な子どものような眼で見られると断ることもできない。 深呼吸を一つすると頭上に見える煌騎の頬にそっと両手を添えた。 「こ……煌騎、起き…て?」 「………ぅ…んっ……ぁ゙ぁ?」 「―――はぅッ!?」 少し、顔を顰められた……。

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