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第55話

心がとっても挫けそうになるが、虎汰はもっと声を掛けてと言う。仕方なく再度声を掛けようとしたら何故か世界が反転し、気がつけば煌騎に覆い被されていた。 「―――あ、あぅ? こ…煌騎?」 「………テメェ、俺の貴重な睡眠を妨げようとするとはいい度胸じゃねーか。どーなっても知らねーぞ」 見上げると煌騎の眼が完全に据わっている。 助けを求めるように虎汰の方を見れば、彼は面白いものでも見るように顔を綻ばせていた。 「―――こ、虎汰!? ヤッ、笑ってないで助けてっ」 「え、何で? あともう少しで起きると思うからチィ頑張ってよ!」 そう天使の微笑みで返されて二の句が継げない。その間にも煌騎は首筋に顔を埋め、手は服の中にするりと入り込んでくる。 大きな掌が胸の尖りを掠めると、ボクの身体は何故か勝手にピクンと跳ねた。 「………あっ…ん……ゃ…煌騎、やだ……んぅっ」 首筋ではチュッチュッと短くリップ音が響き、時折暖かい何かが肌をチロチロと這っていた。 状況が上手く理解できなくてパニックに陥ったボクは、遂にはポロポロと涙が溢れ泣き出してしまう。 「ふぅっ、煌騎ぃ……怖い…よぉ……ふえーんっ」 「―――ぇ………チ、チィッ!?」 漸く完全に目が覚めたのであろう煌騎は、腕の中にいるのがボクだと認識すると慌てて飛び起きた。 そしてボクの身体を抱き起こすと自分の胡座をかいた膝の上に座らせ、ギュッと抱き締め背中を擦る。 「悪いチィ、今の完璧寝ぼけてた。もうしないから、本当にすまなかった」 「うぅ……もう…ボクの、知ってる…煌騎ぃ……?」 首を傾げて確かめるように彼の顔を覗き込む。さっきの煌騎は別人のようで本当に怖かった。 安心させるように優しく背中を撫でらながら、彼が頷くのを見てボクは漸く落ち着く事ができた。 ホッと息を吐くと背後で呑気にケタケタ笑う虎汰の声が聞こえる。 「煌騎はホンット酒飲んで寝た日の翌朝は人格変わるよなぁ。チィもご苦労さまぁ♪ 」 「虎汰てめぇ、ワザとか……」 自己嫌悪に陥り、やり場のない怒りを持て余していた煌騎はその矛先を虎汰に向け、ボクの身体を離すと彼に飛び掛かろうとした。 けどまだお酒が抜けきっていないのか、虎汰にスルリと躱されて逃げられてしまう。

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