「別にいいじゃんっ、チィ可愛いんだし！ いつも犠牲になってたの俺だったんだからね！？ 毎回押し倒される身にもなってよ！」 何とか部屋の入口付近まで逃げ遂せた虎汰は、一気にそう捲し立てると最後にべーッと舌を出して部屋を出ていった。 残されたボクたちは茫然と彼が出ていったドアを見つめる。どうやら虎汰は煌騎がお酒を飲む度に翌日、さっきのボクと同じ目に合っていたらしい。 部屋の中央に立つ彼は驚愕の事実を突き付けられて言葉を失っている。 「………マジかよ。んなの覚えてねーよ、クソッ」 虎汰が出ていってから数分後、漸く正気を取り戻した煌騎は頭を掻きながら、それだけぼそりと呟いたのだった。 気落ちする彼を何とか宥め、それから当然のように抱っこされながら部屋を出ると、ドアの前で和之さんが出迎えてくれた。 でも彼の口許には微かに笑みが……。 それを見た瞬間、煌騎は不機嫌になった。 「やっと起きたようだな、お二人さん。さっき虎汰に聞いたけど、チィ災難だったね」 「………るせぇ、俺はもう今後一切酒は飲まねーよ」 「あぁ、そうして貰えると周りも助かる。さ、朝食の用意ができてるから隣に行こうか」 爽やかにそう返すと和之さんは左隣の部屋に案内してくれる。昨日は気付かなかった部屋だ。 食事の時は皆、一緒にそこで摂る事になっているらしい。しかも料理を作っているのは彼だと聞かされ、ボクは密かに驚いてしまった。 「自分のを作るついでだよ。言っておくけど味の保証はしないからね？」 何てコトないように言ってのける和之さんだけど、自分の分だけでも大変なのに他の人の分の食事まで作るなんて凄いと思う。 料理なんてした事がないけど手伝いくらいならできるかもと思い、そう申し出てみたけどあっさり断られた。 「半分は趣味みたいなものだから大丈夫だよ、でもありがとう♪ その気遣いが嬉しいよ」 優しく笑んで頭を撫でられたが、断られたことにボクはちょっとだけ落ち込んでしまう。 ここに置いて貰える事にはなったけど、まだまだボクは彼らに本当の意味で受け入れられていない気がしたからだ。 それも当然の事といえば当然なんだけど、とても哀しいと感じてしまった。深く項垂れていると、和之さんが顔を窺うように覗き込んでくる。 「ﾌﾌｯ、お手伝いを断ったのはチィにこれからも煌騎の目覚まし時計になって貰わなきゃいけないからだよ？」 毎朝起こすのに苦労させられてたんだと、少し戯け気味に言う。それを聞いてボクはびっくりし、目を見開いていると彼と並んで歩く煌騎が頭をポンポンと撫でた。 「人には適材適所ってのがある。チィは今のところ俺の抱き枕と目覚まし替わりってことだ」 「………適材…適所？」 「そっ♪ だからチィはホント気にしないで、ね？」 横に並んで歩く和之さんが此方を見ながら優しく微笑む。役割を貰えたことに嬉しくなったボクは、意味もわからずニッコリ笑うと強く頷いた。 「うん、わかった！ ボク煌騎の『抱き枕』と『目覚まし時計』頑張るねっ！」 「………あ、あぁ…頼む………ﾌﾌｯ」 「ｸｯ……ｸｸｸ……もっ、ダメ…ぷははははッ！！」 意気込みを見せるように両掌を力いっぱい握り締めて言うと、何故か煌騎は空いている方の手で口元を覆い隠して肩を揺らせ、隣の和之さんに至っては突然吹き出し大声で笑い始めた。 ワケがわからず首を傾げれば、二人に更に笑われ増々分からなくなる。