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第60話
「おっはよ~!チィはこっちにいるぅ?」
お腹がいっぱいになった頃、虎子ちゃんが元気良くドアを開けて入ってきた。手には何やら紙袋を携えている。
「何だよ虎子、お前また来たのか……」
彼女の姿を見るなり悪態を吐く虎汰。
けれどいつものことなのか虎子ちゃんは見事にそれをスルーし、ボクの元に駆け寄ってきてくれた。
「おはよ、チィ♪ 煌騎くんに頼まれたもの持ってきたんだけど、サイズ合うか分かんないから後で合わせてみようね!」
「………う? うん、」
ボクは何のことかわからなかったけど、煌騎が頼んで用意してくれたものならと素直にそれに頷いた。
すると和之さんが時計に目をやり、そろそろ時間だとボクの隣に目配せする。
それに頷くと煌騎はナイフとフォークを静かに置き、ガタッと椅子を退いてゆっくりボクに向き直った。
「チィ、今から人が来る。だがお前の怪我を治療した男だから心配する必要はない」
その言葉に一瞬だけ目を見開いたけど、再度コクンと頷く。直ぐにそれが誰なのかがわかったからだ。
昨日、流星くんや虎汰、虎子ちゃんが教えてくれたお医者さまが来るのだろう。
恐らくボクを驚かせないよう和之さんは前もって時間を知らせ、煌騎も細心の注意を払って丁寧に教えてくれたのに違いない。
二人のさりげない気配りに感謝した。
きっと何も知らずにいきなり訪ねて来られたら、ボクはパニックを起こしていたかもしれない。
「昨日も言ったと思うけど、良い奴だから安心しろ♪」
そう流星くんが付け加え、虎汰も朔夜さんも穏やかに笑ってボクを見つめる。
それに応えるように微笑み返し、また頷いた。
それを見届けた煌騎はスッと腰を上げる。
「よし、じゃあ隣の部屋で待つか……」
彼の一声で皆が一斉に立ち上がり、ゾロゾロと移動を始めた。それに習いボクも席を立とうとすると、煌騎が透かさずボクの両脇に手を滑り込ませ抱き上げられてしまう。
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