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第63話

「健吾さんっ、ノックくらいしてくれよっ!!」 怯え始めたボクを見た虎汰はちょうど前に立っていたこともあり、守るように両手を広げて彼に立ち塞がってくれる。 お陰でボクからは男の姿が見えなくなり、少しホッとして肩の力を抜くことができた。 「ん? あぁ、悪ぃ! 小動物は警戒心が強いんだった」 「呑気に言うなよ! せっかく前もってあんたが来るって教えて置いたのにチィ、怖がってるじゃないかっ」 虎汰の言葉に男は一瞬キョトンとし、次いで彼の肩口からボクの様子を窺うように覗き込んだ。 男の人は虎子ちゃんの背に隠れるように縮こまるボクを見た瞬間、申し訳なさそうに顔を歪め、その場で潔く頭を下げた。 「す、すまない! 怖がらせるつもりはなかったんだっ! ただキミにまた会えると思うとつい嬉しくてっ」 「―――ぅ?……ぁ…んと、えと……」 潔くその場で頭を下げる彼に、ボクは驚いて慌てふためいてしまった。けれど間違ったことをすれば大人でも謝るのは常識だと言い、頭を下げるのに年齢なども関係ないと譲らない男の人。 動揺はしたが悪い人には見えなかったので少し警戒心を解き、ボクは虎子ちゃんの後ろからひょっこり顔を覗かせた。 すると彼は安堵の息を吐いて嬉しそうにニコリと笑う。でもその笑顔を見た瞬間、ボクの思考はピタリと止まった。 「………ケン兄……ちゃ…ん……?」 あの"コウちゃん”の時と同じく、ボクが子どもの頃からよく見ていた夢に出てくる"ケン兄ちゃん”に彼は瓜二つだった。 思い描いていたボクの理想のお兄ちゃん……。 それが今こうして目の前に実在している。 煌騎の時にも感じたけれど、本物の『彼』に再会したような不思議な感覚に陥った。 「………やっぱりな、」 そうポツリと呟いたのは少し離れた所にいた煌騎だった。"ケン兄ちゃん”に似た彼も静かにそれに頷き、まるで懐かしむように此方を見ている。 ボクには何のことだかさっぱりわからなかった。 「―――え、ちょっと待って……。チィ何で健吾のこと知ってるのっ!?」 驚きと戸惑いの中、沈黙を破ったのは虎子ちゃんだった。彼女は目を見開かせ、自分の横で放心状態になってるボクに慌てて振り返る。

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