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第65話

あまりの早業に抵抗する暇もなかったけれど、既に煌騎の膝の上がボクの定位置のような気がして、大人しくされるがままになる。 「………へぇ、随分と手懐けたな」 朔夜さんの隣りに腰を落ち着けた健吾さんが、感心したようにこちらを見て目を細めた。その彼の眼差しは何故か慈愛に満ち溢れている。 ボクには縁遠く、された経験もなかったけど世の父親が娘に向けるような、多分そんな眼差しだった。それは何だか恥ずかしくもあり、嬉しくもあるものなんだなと思った。 するとちょっと不貞腐れ気味に虎汰が横から口を出す。 「チィは初めから煌騎にだけは懐いてたよっ」 そう言ってプイッとそっぽを向く。 何に対して拗ねてるのかはわからなかったけど、確かに彼が言うようにボクは初めから煌騎には恐怖を感じなかった。 だってボクの中では彼は出会った時から特別だったから……。 ただコウちゃんに似ているというだけではない何かが、ボクに煌騎を素直に受け入れさせた。 「……そっか、でもそれを聞いて安心したよ。最初はこの子をこんな不良のたまり場に置くのは忍びなかったんだが、煌騎がいれば問題なさそうだ」 「いや、その事だがやはり当初の予定通り健吾にチィの身柄を預かって貰う」 「―――えっ、」 健吾さんが胸を撫で下ろしたのもつかの間、煌騎が首を横に振ってそんな事を言う。 その場にいる誰もがその言葉に耳を疑った。 もちろんボクもその中の一人で、ただ茫然と彼を見ていた。 「なん……だよそれッ!? お前チィを手放すのかっ!」 「ダメだよそんなのっ、俺は絶対に認めない!だって俺たちで守るって言ったじゃん!!」 興奮したように流星くんも虎汰も憤りをそのまま煌騎にぶつける。 またもや険悪な空気になり、虎子ちゃんや和之さんがやんわりとその場を取り成そうとするけれど、両者とも頑として聞き入れようとしない。 救いを求めるような少し困った顔で、和之さんらがこちらを窺い見るけどボクは既に放心状態だった。 ―――煌騎の中ではボクを手放すことはもう、決定事項……なんだ……。 そう思った途端、目の前が真っ暗になる。 ちゃんと呼吸しようと思うのに上手く息ができず、指先も痺れたようになって震え出す。

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