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第66話

何かがおかしいと感じた時にはもう、身体が正常に機能しなくなっていた。無理に呼吸すれば喉がヒューヒューと鳴り、目眩や吐き気もする。 煌騎に助けを求めようにも声が出ず、震える手で彼の胸元に縋るのが精一杯。そんな中、逸早くボクの異変に気付いたのは周りの誰より冷静な健吾さんだった。 「―――おい煌騎ッ、その子の様子が変だ!」 「―――え、」 その一言で皆が一斉にこちらへと視線を向ける。煌騎も慌ててボクの顔を覗き込み、心配そうに背中を擦ってくれた。 「チィッ、どうした、大丈夫かっ!?」 「酸素を取り込み過ぎてるんだ。煌騎、この子の口を優しく塞いでやれ。鼻で呼吸をするように促すんだ」 健吾さんが迅速に応急処置の仕方を指示する。 直ぐさまそれを実行しようと煌騎がボクの頤に指を添え、クイッと軽く持ち上げさせて顔を近づけてきたがそれを首を振って拒んだ。 「チィッ!? 何故イヤがる、苦しいんだろ?」 煌騎は困惑気味に首を傾げるけれど、尚も顔を近づけようとする。だけどボクも彼の胸元にしがみ付いて必死に抵抗した。 「………い…やぁっ、……ゃ…だ…よぉ……ハァハァッ」 まるで幼い子どものように愚図り、苦しくてもう意識が遠退きそうなのにボクは弱々しく首を振り続ける。 どうすればいいのか途方に暮れた彼は周りを見回すが、皆も動揺の色が隠せず狼狽えるばかりだった。 「………頼むチィッ、鼻で息をしてくれ! 直ぐに呼吸が楽になるっ 」 「……ぃ…やぁ…、煌騎ぃ……ハァハァ…捨てない…でぇ……ッ、離れてっちゃ……ゃ…だぁ……っ」 「……………チィ、」 苦しい呼吸の中、途切れ途切れだったけどやっと思っている事を言えた……。 それを聞いて煌騎は言葉をなくす。でも彼に伝えたいのはこれだけだった。ボクは煌騎から離れるのが死ぬよりも怖い。 だって彼はボクにとって“生きる理由”であり、“死ぬ理由”でもあるから……。 もう何もない自分に戻るのはイヤだと思った。 だから懸命に煌騎にしがみ付き、離されまいと首を横に振る。

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