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第67話
頭上で煌騎の大きな溜息が聞こえた。途端にビクリと肩が震える。ボクがみっともなく縋り付いたから、呆れられたのかもしれない。
今度こそ捨てられると覚悟した時、彼の優しい声音が降ってきた。
「…………わかった、お前を傍に置く。だからチィ…落ち着いてゆっくり鼻で息をするんだっ、頼む!」
それは懇願にも似た声だった。
とても信じられなくて慌てて顔を上げると、根負けしたというように複雑な表情をした煌騎の眼差しとぶつかる。
「……い…い……の? ボク……傍 っ…いて……っ」
怖々と聞き返せば、彼は優しく微笑んで頷いてくれた。それを見たボクは漸く鼻で呼吸しようと頑張ってみる。
でも上手くいかず口で息をしてしまって更に息が乱れ、呼吸が全然楽にならない。見兼ねた煌騎はまたボクの頤に指を添え、顔をそっと上へ向かせた。
そして彼の唇がボクのそれに重なる。
酸素を求めて開けた口に熱い舌が差し込まれ、優しく口内を擽られて反射的に自分の舌を絡めた。
すると酩酊したようにふわりと気持ちが楽になり、気がつけばボクは夢中で煌騎の舌を吸っていた。
辺りにぴちゃぴちゃと水音が響く。
煌騎の手は労るように背中や腕、頭などを擦りボクにリラックスするよう促してくれる。いつまでもこうしていたいと思える程、それは優しい抱擁だった。
最後にちゅっとリップ音を鳴らせて煌騎の唇は離れていく。ボクは頭がぼんやりする中それを見送った。
呼吸が正常に戻る頃には周りの皆も落ち着き、それぞれの席へと戻っていく。
「……もう、苦しくはないかい?」
医師である健吾さんが床に膝を付け、ボクの首筋に指で触れて軽く触診しながら尋ねてくれた。それにボクはコクンと頷いて答える。
「ん、良かった。でもびっくりしただろ? 急に呼吸が難しくなって……」
「うん。ボク、病気なの?」
「まさか! 一般的には過呼吸と呼ばれているけど、過度なストレスや不安から引き起こされる発作なんだよ」
大事ないと診断した彼は、ボクの頭を優しく撫でると自分の席に戻っていった。朔夜さんの隣りに腰を落ち着けた健吾さんは、深い溜息を吐き少し睨むように煌騎を見据える。
「この子は今まで辛い環境にいただろうから、言動には注意を払うようにと言って置いた筈だろう?」
静かな口調だったけれど怒気の含むその声色に、知らずボクの身体はビクンと跳ねらせた。
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