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第68話
すると煌騎が透かさず背中を撫でてくれ、直ぐにその緊張は溶けてなくなる。
「………すまない。チィの為にはここに置かない方がいいと思ったんだ」
そう言って彼は優しくボクを見下ろす。
その瞳には罪悪感が滲んでいて、胸を締め付けさせた。
「ここは俺を含め、血の気の多い奴ばかりだ。ケンカも耐えない。その度にこいつをびくびくさせるよりかは、あんたの所へ預けた方がっ―――…」
「―――ちょっと待てよ煌騎ッ!」
その時突然、流星くんが言葉を遮って声を荒げた。彼は納得がいかないという顔で煌騎を睨みつける。
「そういう事なら何でもっと早く相談してくれなかったんだよっ」
「そうだよっ、俺たちの所為でチィの気が安まらないって言うなら直す努力だってするっつーの!」
虎汰も立ち上がる勢いで抗議する。
その迫力に少し驚いて怖くもあったけど、それよりもボクの所為で煌騎一人が悪く言われているような気がして、とても悲しくなった。
両目に涙を溜めて俯き、自己嫌悪で下唇をぎゅっと噛む。でも次の瞬間、二人の頭に虎子ちゃんのゲンコツが飛んだ。
その衝撃は凄まじかったのか、虎汰と流星くんはソファの上で暫く蹲り悶絶していた。
「あんたたちのその気の短さが問題だって言ってんでしょうがぁッ!! ホント、バッカじゃないっ!?」
呆れたようにそう言うと、腕を組んで両隣りの二人を交互に睨みつける。
殴られた二人は痛む頭を擦りながらも、己の失態に気付いたのかシュンとなった。だけど一度火が付いた彼女のお説教モードはそれだけでは留まらない。
「大体ねぇ、あんたたちはいつもいつも……」
日頃から感じていた不満をマシンガンの如く二人にぶつけ始める。このままでは虎汰たちが可哀想だと思ったのか、和之さんがさりげなく間に入った。
「まぁまぁ、虎子ちゃんもそれくらいにしてあげてよ。そいつら落ち込み出すとウザいからさっ」
そう言って彼女を宥めた和之さんの手には、人数分のコーヒーカップが乗ったトレイがあった。
少しの間姿が見えないと思っていたら、彼は皆の飲み物を用意しに席を立っていたらしい。
「もう! 和之さんが甘やかすからこいつら調子に乗るんですよ?」
「はい、虎子ちゃん♪ ちょっと熱いから気をつけて?」
まだ言い足りないのか虎子ちゃんは口を尖らせたが、笑顔でコーヒーを差し出されて仕方なく言葉を噤む。
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