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第69話

けれど彼女のお陰で険悪な空気は払拭され、また和之さんが煎れてくれたコーヒーも彼らの興奮を鎮める手助けとなった。 一通り配り終えると彼は最後にボクの所にきて床に片膝を付き、真っ白なマグカップを手渡してくれる。 「チィのはホットチョコにしたから。飲むと落ち着くよ?」 そう言って和之さんはニッコリ微笑む。 釣られてボクも笑って頷き、手渡されたマグの中を覗き込んだ。 途端に温かい湯気がぶわっと顔を優しく包み込み、それと共にとても甘い匂いが鼻孔を擽る。 初めてのその香りに胸がドキドキした。 飲むのがもったいない気がして躊躇っていると、煌騎が苦笑を浮かべながらも飲んでみろと言う。 和之さんも笑顔で飲むよう勧めてくれるので、フーフーした後思いきってコクンと一口飲んでみる。 すると口の中に甘い味がポワンと広がり、心も身体もポカポカと温かくなった。 「―――美味しいっ、煌騎コレ凄く美味しいよっ!」 「そうか、よかったな」 「うんっ! 和之さん、ありがとう♪ 」 感激して興奮気味に煌騎を見れば彼はくしゃくしゃと頭を撫でてくれ、それからこんなに美味しい飲み物をくれた和之さんにもお礼を述べる。 彼は嬉しそうにまたニッコリ笑うと、ゆっくり自分の席に戻っていった。 「さて、皆が冷静になったところでちょっと話を整理しようか。幾つか気になる点があるようだし……?」 席に戻るなり和之さんが口を開く。 表情もボクに向けてくれた先程のものとは違って、真剣そのものだった。見渡せば皆も彼同様にカップをテーブルに置き、静かに聞く態勢に入っている。 やはり彼を含めここにいる皆は大きなチームの上に立つ人たちなんだなぁと、その切り替えの早さにボクは改めて思った。 「健吾さん、貴方もチィの事をご存知だったんですね」 和之さんの静かな問いに、彼は少し困った顔をした。でも肯定も否定もしない。 ただ哀しそうな顔でボクを見ていた。 「テメェ! 答えないつもりかよっ」 「コラ待て流星ッ、直ぐに熱くなるなっ!」 「―――痛ッ!?」 痺れを切らした流星くんが立ち上がり彼に詰め寄ろうとしたが、寸での所で和之さんが止めに入る。 けれど何故か止められた流星くんからは悲鳴に似た呻き声が聞こえた。此方からは見えなかったけど、彼はどうやら腕を捻り上げられているようだ。

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