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第71話

「……う? なーに煌騎?」 「………いや、どうしてその二人を空想の人物だと思ったのかと思ってな」 首を傾げると彼は不思議なことを言う。 でもそんなこと考えるまでもなくわかり切っていた。 「だって夢の中にはいつも必ずもう一人のボクがいたから……それって夢って事でしょう?」 そう、ボクが心の拠り所にしていた夢には必ずもう一人の自分がいた。そんなことは現実にはあり得ない。 だからアレは夢……。 ボクは至って真面目に答えたつもりなのに、でも煌騎は何故か一瞬目を見開いた後「そういう事か…」とボソリ呟き、突然笑いを噛み殺すように肩を揺らし始めた。 ワケがわからずまた首を傾げてみても、彼は理由を話してくれない。拗ねてぷくぅっと頬を膨らませたが、残念ながらそれも効果はなかった。 「お前は何も知らなくていい。今はまだ……な」 その場を誤魔化すようにまた頭をくしゃっと撫でられたが、煌騎に頭を撫でられるのは大好きなのでボクはそのまま大人しく目を瞑る。 「じゃあ気を取り直して俺の自己紹介してもいい?」 そう言って徐に健吾さんに話し掛けられ、ボクは慌てて瞼をパチリと開けた。 いけない、いけない! 気持ち良すぎて危うく眠ってしまう所だった。目が合った健吾さんにはクスクスと笑われてしまう。 「俺はこの近くで開業してる小さな病院の雇われ医師、(いばら) 健吾(けんご)だ。ここにいるメンバーとは古い付き合いでね、俺もキミのことチィって呼んでも構わないかい?」 「あ、はい! よろしくお願いします」 「あはは、タメ口でいいよ♪ ここで俺に敬語を使うのなんて和之以外いないからね」 フランクに話してくれる彼は、とても親しみ易い性格の持ち主のようだった。 それに何といっても彼は"ケン兄ちゃん”に瓜二つなのでちっとも怖くない。怪我の具合を診るからと寝室に二人きりにされたけど、健吾さんは終始ボクを笑わせてくれる。 お陰でリビングに戻る頃にはすっかり打ち解け、行きと同様ケガに響くからと彼に抱っこされながら戻ってきた。 「なんか煌騎も健吾さんもズルいよな……」 「そうだよっ、夢に出てくる登場人物に似てるからって無条件にチィに懐かれてさぁ!」 納得のいかない流星くんと虎汰はさっきからずっとムクれたままだ。煌騎の膝の上に再び降ろされるなり、二人にそう愚痴られた。

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