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第75話〜腕の中の温もり〜(煌騎side)

「………もしかしてチィ寝ちゃった?」 「あぁ、気持ち良さそうに眠ってる」 虎汰がソファに座りながら俺の腕の中を覗き込む。こちらの席に近い流星も覗き込んで確認し、苦笑を浮かべて答えた。 それを聞いて皆は少し残念そうな顔をしたが、背中を撫でてチィを眠るよう誘導した張本人の俺は素知らぬ顔をする。 こいつはさっきまでブルブルと震えていた。皆に悟られまいと必死に抑えてはいたが、恐らく思い出すのも辛い記憶を呼び起こしてしまっていたのだろう。 1日や2日でこいつが抱えている全てのものを払拭できるとは思っていないが、もどかしい思いにどうしても苛まれる。 俺はガキの頃、守ってやると誓ったのに……。 今日、健吾に会わせてやっと確信を持つことができた。腕に抱くこいつはやはりあの時の“アイツ”だ。 だが今の俺に何ができる? 例えどんな理由があろうと親父には返しきれない恩がある。不義理は出来ない。いずれは愛音と結婚し、鷲塚組を継ぐことが決まっていた。 それに親父はきっとこの事実を受け入れない。いや、受け入れられないの間違いかーーー…。 組の面子(めんつ)がどうこうというのじゃない。それを受け入れてしまったが最後、10年前に1度収束した抗争が再発する恐れがあるからだ。組を預かる者としてそれは絶対に避けねばならなかった。 多くの血が流れたあの抗争をまた繰り返してでも、取り戻すだけの価値が今の"あいつ”にあるか見定める必要もあるだろう。 とにかく、今は"向こう”の出方を待つより他にない。 俺に偵察を入れてきた"ヤツ”も所詮は末端にすぎないだろうし、上にはかなりの大物が潜んでいるハズだ。 恐らくは想像もつかないような怪物が……。 「………珍しいな、考え事か?」 頭の中で考えを纏めていると、不意に声を掛けられた。顔を上げれば和之が真剣な面持ちでこちらをじっと見ている。 何か言いたげな表情をしているが、こいつは決して俺に詮索したり意見したりはしない。そのクセ、いつも欲しいタイミングで力を貸してくれる。 よほど物好きなのか何も話さないこんな俺の傍に幼い頃から常にいて、喧嘩する時は背中を預けられる唯一の男だ。 俺の父親が鷲塚という男に絶大なる信頼を置いていたように、和之は俺にとって掛け替えのない存在だった。 「……いや、何でもない」

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