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第76話

今回も俺は口を噤んだ。 チィの正体は誰にも……当の本人にですら話せない。真実を知った者は人知れず闇に葬られるからだ。このことは昨夜、健吾と電話で話し合って決めた。 「……また黙りかよっ」 流星が不服げにぼそりと呟く。 今回のことでは奴もかなり不満が溜まっているだろうが、危険を侵してまで動きそうなこいつらには尚更すべては明かせない。 かといって鷲塚組の助力が得られない以上、事情だけは話して置かなければならなかった。 深い溜息を吐いた後、俺はゆっくりと重たい口を開く。 「………わかった、だがチィのことは身の安全上話せない。だからこれ以上は聞くな。それ以外なら話す」 そう言った途端、何故か皆が口を開けてポカンと間抜けな顔を晒して固まった。どうやら俺が話すと言ったことに対して驚いているようだった。 心外だと思ってはみたものの振り返れば付き合いが長い割に、今まで何一つこいつらに相談などしてこなかったように思う。 誰が欠けても後悔が残る大事な仲間なだけに、これ以上の隠し事は不誠実なのかもしれないと思い直し再び口を開いた。 「今回の件、ワケあって鷲塚組は関与させない。全てここにいる俺たちだけで動く」 「………へぇ、面白そうじゃんっ」 虎汰がそう言ってニヤリと笑った。 それを皮切りに流星も和之も、それに普段は物静かなあの朔夜でさえも不敵に笑んでいる。 「なんだよ、ようやく俺たちの本来の力が発揮できるチャンスじゃねーかっ!」 「………だな」 「鷲塚組なんて寧ろいらないよ♪ 」 「あぁ! 俺たちの“最強伝説”を(つく)ってやろうぜッ!!」 ワクワクしたような眼差しで流星が言い、和之も虎汰も賛同して興奮気味に声を張り上げる。 朔夜はやはり終始冷静だったが、その瞳には静かなる闘志が宿っていた。皆まるで暴走前夜の高揚した時のソレだ。 夕べ喫茶店で和之の報告を聞き大まかな背景は認識しているハズなのに、こいつらは怯むどころか挑むつもりでいやがる。 本当に頼もしい連中だ。口角を少し上げて目を細めると、それを承諾と捉えた流星たちが歓声を上げた。 多少“祭り感覚”なのは否めないが、忠告したって聞く奴らじゃないのは重々承知している。 だからその事に関しては目を瞑ることにした。

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