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第77話

一応はチィが目を覚ますから声を抑えろとだけ注意し、後はもう好きにさせる。 「……若いっていいねぇ♪ まぁ俺も微力ながら力を貸すからさっ、出来ることあったらいつでも呼んでよ」 そう言って健吾が静かに席を立ち、帰り支度を始めた。早朝からこんな所に顔を出してはいるが、奴も今はれっきとした社会人だ。 今から仕事場である個人病院に向かうのだろう。すると透かさず俺と虎子以外の全員が立ち上がり、健吾を見送りに入口へと向かう。 「健吾さん、今度またバイクの話聞かせて下さいよ」 「あぁ、暇な時にでもなっ」 「ちぇ~、あんたいっつもそればっかで忙しそうにしててちっとも相手してくんねーじゃんっ」 「あはは、ワルいワルい!」 さっきの喧騒は何処へやら……だ。 ドアの前で健吾を取り囲み、和之を筆頭にバイクの話で盛り上がる虎汰や流星たち。ウチのチームは何故か全員、奴をバイクの神と崇めて崇拝している。 去年の暮れにチームNo.1の運転技術を誇る和之が勝負に負けて以来、誰もこいつに歯向かうことはなくなった。 俺らの代の面子は大半が走るのを目的に入ったような連中ばかりだ。かくいう俺もその内の一人だが、男はやはり走りが上手いとそれだけで憧れの対象になるのだろう。 暫く和之たちに捕まって長々と話していたが、病院を開ける時間が迫っていたこともあり健吾は慌てて帰っていった。 奴が帰ったのがよほどつまらなかったのか、部屋には暫し静寂が訪れる。 だがバイク好きの和之や虎汰などが気落ちするのはわかるが、まさか朔夜までが落胆するとは思わずさすがの俺も内心は驚く。 「もうっ、健吾が帰ったからってナニ落ち込んでるのよ! これからそんなヒマなくなるくらい忙しくなるんだからね!? しっかりしなさいよ、アンタたちッ!!」 あまりに締まりのない連中に虎子が喝を入れる。が、その声でチィの身体が一瞬だがビクリと跳ねたのを見て慌てて口を掌で覆う。 「チィ起こすトコだったじゃないっ!!」 今度は小声でそう言い、隣に座った虎汰を彼女は八つ当たりで叩き出した。

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