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第78話

相変わらず傍若無人な妹に奴は眉間に皺を寄せたが、こちらをチラリと見て黙り込む。チィに気を遣ったのと虎子には逆らえないのと、半々といったところか……。 本当に面白い兄妹だと思いながら、俺はチィを抱えたままゆっくりと立ち上がる。すると流星が慌てて声を掛けてきた。 答えるのがメンドーだったので顎で寝室を指すと、奴は何故だかホッと息を吐く。 「なんだチィを休ませるのか、イチイチ声かけて悪ぃ……」 そう軽く謝罪して流星は寝室のドアを開けに一緒に席を立つ。そして開ける際にまた「ついててやれよ」と言い、俺をチィごと中へ押し込めてパタンとドアを閉めた。 健吾にチィを預ける話をしたからか、俺の行動に過剰反応しているようだ。 ヤツの気遣いはチィの為に向けられたもので、さっきの発作の事も含め流星なりに気にしているのだろう。根っからの小動物好きだからな。 腕の中をそっと見る。こいつはまるで卵から孵った雛のようだと思った。 この小さな生き物は俺から離れるのを極端に怖がっている。それは恐らく監禁していた奴がこいつを肉体的にも精神的に追い詰め、自分には何の価値もない人間だと思い込まされた所為だ。 自由をすべて奪い長く飼い慣らす為に……。 だが奴らは何故チィを殺さずに生かした? 目的が達成されたのなら、後は邪魔なだけのこいつを処分する方が何かと楽だ。 なら殺せない理由がある、ということか……? 増々深まっていく謎に頭を抱えながらふとまた自分の腕の中を見る。今は幸せそうに眠るチィの顔がそこにはあった。 辛い経験を数えきれないほどしてきたのにそんなものは微塵も感じさせないくらい、とても穏やかに眠る姿に荒れた気持ちが瞬く間に和んでいく。 この寝顔を何としても守りたい……。 いつまでもこいつが笑っていられるように、俺の持つ力を全て注ごうとチィの寝姿にそっと誓った。

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