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第80話

ホントはまだちょっと頭の中で混乱してるけど、それよりもせっかく仲良くなった皆にもう笑い掛けちゃいけないのかと思って、少し焦ってしまったので一安心だ。 それからも虎汰と流星くんが中心となっていろんなことを教えてくれた。でもその間中、向かいの和之さんや朔夜さんはずっと苦笑いを浮かべていたのは何故だろう? 煌騎に至っては苦笑いを通り越して終始不機嫌丸出しの顔だった。理由を尋ねても何でもないの一点張りで、結局教えてはくれなかったのだ。 けれど和之さんが気にしなくていいって言うからそっとして置いた。まぁ本当は虎子ちゃんに学校で使うかわいい筆記用具をプレゼントされて、そちらに気が削がれちゃったんだけど……。 昨日はちょっと浮かれすぎちゃったのかもしれない。 今日からボクは健吾さんの遠い親戚の子、(いばら) チィとして生きることになる。 転入手続きも既に彼が全てしてくれた。 怪我が治ったらすぐにでも学校に通えるようにって……。 知り合いが理事長を務めているとかで、いろいろ無理を聞いて貰ったらしい。今の“ボク”がいるのは本当に皆のお蔭だと思った。 「何をそんな幸せそうに笑ってる。……その幸せ……俺にも少し分けてくれよ……」 「―――ふぇっ!?」 腕の中でひとりニコニコしていると、いつの間に目を覚ましたのか煌騎がこちらを見下ろしていた。 その口許には微かに笑みが……。 どうやら先ほどから薄目を開け、ボクが一人で昨日のことを思い出しては青くなったりクスクス笑ったりしているのを、黙って見ていたようだ。 急に恥ずかしくなってボクは慌てて俯く。 「煌騎ズルいっ、見てたのなら教えてよぉ!」 「フッ、邪魔しちゃ悪いかと思ってな……」 仕返しにパタパタと胸を叩くが、彼はビクともしないし悪ぶれることなく平然とそう言ってのける。 ぷうっと頬を膨らませたらぎゅ~っと抱き締められ、幼子にするように背中をポンポンと擦られた。 「さてと、チィもすっかり目が覚めてしまったようだし、まだ早いけど…起きるか……」 煌騎の言葉にボクはパアッと目を輝かせて顔を綻ばせる。

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