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第82話
しかしそれにはまったく気づかないボクは、彼の袖を掴みくいくいと引っ張って顔を覗き込む。
「和之さん、和之さん! ボク今日もあのふわふわのオムレツが食べたいの……ダメ?」
「ん? あぁ、バターたっぷりのオムレツだね。アレそんなに気に入ってくれたんだ?」
「うんっ、オムレツ好き♪ 毎日でも食べられるよ!」
笑顔で頷くとまた彼に頭を撫でられた。
煌騎の言う通り彼は元からオムレツを今朝の朝食にも出すつもりだったらしく、もう既に下ごしらえも済んでいるとのこと。
だから安心して出来上がるのを待っててと言われた。でもキッチンに戻り掛けて途中で振り返り、和之さんは気遣わしげに此方を見る。
「あ、もしチィがお腹空いてるなら二人の分だけでも先にパパッと作っちゃおうか?」
「ううん、大丈夫! ボクだってちゃんと“待て”くらい出来るもんっ」
「えっ!? ま、“待て”って……ふっ……ふははははっ」
ボクは慌てて首を横に振ったけど、何故か和之さんはお腹を抱えて爆笑し出してしまった。
ボク何かおかしな事言ったかな?
「……な…なんで、笑うの?」
見れば隣りの煌騎も口許に拳を当て、声を殺してこっそり笑っていた。
この笑い方からして二人はボクに対して笑っているのだというのは、一度経験してるからなんとなくだけどわかる。
でも何もした記憶がないので首を傾げるしかない。すると和之さんは変わらず笑みを浮かべながら弁明する。
「い…いや、フフッ、今日もチィはカワイイなぁと思って、なぁ煌騎?」
「………フッ、そうだな。さぁチィ、これ以上ここにいると和之の邪魔になる。もう向こうへ行くぞ」
同意を求められた煌騎は相槌を返し、ボクを抱っこしたまま食堂を後にしようとした。
納得はいかなかったけど、和之さんの邪魔になると言われては素直に従うしかない。
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