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第89話

「もちろん物理的な強さという意味じゃなく、内面から溢れ出す強さだけどな」 「……ぶつ…り、てき?……ない…めん?」 「長い間お前は自由を奪われ、謂れのない暴力にずっと耐え続けてきた。それは容易に真似できる事じゃない。だからチィはとても我慢強くて、誰にも負けないくらい心が強い」 「………ボク……心、強い?……1番?」 「あぁ、お前は自分に自信を持っていい」 オウム返しのように繰り返して、心の中でも煌騎の言葉を何度も何度も口にし呟いてみた。 彼の言っている事は少し難し過ぎてよく分からなかったけど、でもその間も急かさずボクが理解するまでジッと待ってくれている。 それを見て漸く自分なりの答えを見つけていいんだと理解できたから、一生懸命うんうんと唸って考えてみた。 「……んと…んと、ボク1番強い……だったらみんな、許してあげるの」 強い子は弱い者虐めしちゃダメって煌騎が言ったから、目の前でケンカを始めちゃった和之さんや流星くん、それから朔夜さんも許してあげようと思った。 多分3人とも悪気はなかったと思うんだ。普段の彼らはいつもこんな感じで、ボクがいなければ恐らく喧嘩にもならなかった筈だから……。 「チィ、お前はやっぱり強くて優しいな……」 「んとね? ごめんなさいすると打たれるからとっても怖いし勇気がいるの。だからみんないい子!」 そう言ってボクは身を乗り出すと前の席に座る流星くんの頭に手を置き、いい子いい子と口で言いながら撫でてあげる。 次にボクの前で立ち尽くしていた和之さんに目を向け、おいでおいでと手招きして近寄って身を屈めて貰った彼の頭にもいい子いい子した。 朔夜さんは何も言わずに自分から席を立ち、頭をボクに近付けてきてくれる。もちろん彼にもいい子いい子した。 「チィ、俺も撫でて撫でてぇ~♪」 珍しくさっきまで大人しかった虎汰もその場を立って、自分の頭を此方に差し出してきたのでお利口さんしててエライねっていっぱい撫でてあげる。 ボクは嬉しくなってうふふと笑いながら、もう一回みんなの頭を平等に撫でてあげたのだった。

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