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第90話〜休息の時間〜

その日の夜、ボクは高熱を出した。 恐らくは知恵熱だろうと煌騎は言うけど、額に大きな掌を乗せて気遣わしげに顔を覗き込んできてくれる。 「………チィ、大丈夫か?」 「……んっ……だい…じょぶっ……ハァハァッ」 声を掛けられたのに荒い息遣いに邪魔をされて、なかなか上手く返事が返せない。だから苦しいけど頑張ってニコッと笑い掛け、彼がこれ以上心配させないよう努めた。 けれどそれを見た煌騎は辛そうに眉間に皺を寄せ、ベッドの端に下ろしていた腰を上げるとサイドボードに手を伸ばし、そこにあったスマホを持って部屋の隅に移動する。 そして何処かに電話を掛けたと思ったら短く会話してから通話を終え、今度はボクに振り返って"少し待ってろ”と言い残し部屋を出て行ってしまう。 でも直ぐに戻ってきてくれてその手には『熱さまシート』と書かれた箱が握られており、何故か彼の横には和之さんの姿もあった。 「チィ、熱が出たんだって?……大丈夫?」 明日の朝食の仕込みをしていたという彼はベッドに横たわるボクの姿を見つけ、煌騎の時と同様に眉根を寄せて近寄ってくる。 それを横目に煌騎は彼を追い越すとボクの枕元まで戻ってきて、箱の中から白いシートを一枚取り出してそれをおでこにペタリと貼り付けてくれた。 はうっ、冷たくって気持ちいい……。 「和之すまないが今から健吾を迎えに行ってくれ。電話ではもう伝えてある」 「ん、分かった。チィ直ぐに健吾さん連れて戻ってくるから、もう少しだけ辛抱しててね」 「……ハァハァ……んっ……かずゆ…き、さ……待っ……ハァハァ」 ボクはイヤイヤというように首を振って彼を引き止める。いつも殴られ過ぎた後はこうなる事が多かったから熱には慣れていた。 だから大丈夫だよって伝えたかったのに和之さんは最後までボクの言葉を聞かず、そのまま急いで部屋を出て行ってしまう。 するとその騒ぎを聞きつけた流星くんらが心配して来てくれて、部屋の中で右往左往し出した。 凄く申し訳ないなと思ってる間に健吾さんが倉庫に到着し、ボクはベッドに寝たまま診察して貰った。 「うん、ただの風邪だよ。漸く落ち着ける場所を見つけられて気が緩んだんだろうね。今まで蓄積された疲れが一気に噴き出したんだよ」 診察が終わった後、健吾さんはそう言って労るようにボクの頭を撫でてくれる。

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