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第91話

熱のせいで息が荒く意識も朦朧とするけれど、その冷たい手が頬に触れてとても気持ちが良く擦り寄ってしまった。 「まぁ一昨日たくさん出歩いたようだし、昨日も興奮して寝付けなかったんだろ? 元々ない体力が底をついてしまったんだろうね」 「……あ……なんだよ、やっぱ俺たちが原因かッ」 健吾さんの説明に皆が瞬時に反応し、考えが足りなかったと口々に零しながら後悔したように顔を歪める。 けれど健吾さんは咎めるつもりはないのかクスリと笑うと、大きな鞄から液体の入った透明の袋と長い管を取り出し、それらを手際良くセッティングしてボクの腕に刺した。 針を刺される瞬間はさすがに怖かったけど、反対側の枕元に腰掛けて見守ってくれていた煌騎に手を握って貰い、なんとかそれに堪える。 「チィの身体は今とっても疲れてる状態なんだ。だから少しの間休ませてあげようね」 「……ん、健吾さっ……診てくれてありが…と」 諭すように言う健吾さんの言葉にボクは素直に頷き、彼にまた頭を撫でて貰いながら傍にいる煌騎の顔を見上げた。 途端、また彼に迷惑を掛けてしまったと申し訳ない気持ちになる。けれど彼は片方の口端を緩く上げると少し屈んで、ボクの鼻をキュッて指で摘んだ。 「もう寝ろ、余計な事は考えるな。いま健吾に身体を休めろと言われたばかりだろ?」 「………っ、でも………ハァハァ……ッ」 「お前はいろいろと考え過ぎだ。今はとにかく体力を回復させる事だけを考えろ」 煌騎にもやんわりと諭されたボクは再び頷き、徐々に重くなってくる瞼を右手で擦ろうとして、その腕に管が刺さっているのを思い出す。 さっき健吾さんに付けられたんだった。管の先の液体が入った袋は何故か今、この中で1番背の高い流星くんが持たされている。 その姿がなんだか可愛くてクスクス笑ったら、頭を撫でていた筈の健吾さんの掌がボクの両目を覆った。 「さぁもう目を瞑って……身体を休めるんだ。でないとせっかく自由を手に入れたのに、それをなかなか謳歌できないままでいる事になるよ?」 「……熱…下がっ…たらボク……ハァハァ…外の世界……見て回れ…る……?」 「あぁ見て回れるさ、チィならきっとね」 その言葉が嬉しくて自然と笑みが零れる。身体は変わらず熱くて息もし難く苦しかったけど、このまま眠れば幸せな夢が見られる気がした。 だから皆が見守ってくれる中、今度は瞼が重くなっても抗わずにゆっくり閉じる。 薄れゆく意識の中で、煌騎が耳元で「夢の中でまた会おうな」と言ってくれたのが聞こえて、ボクは無意識に笑んで頷いていた。

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