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第95話

食後はゆったりと寛ぎながら皆は珈琲を飲んでいたけど、ボクは煌騎の首元に抱きつきながら後ろの窓の外を眺めていた。 お空には白くてふわふわの雲がゆっくりと風に流され、様々な形に変わっていく。 それが面白くて飽きずに見ていたけど、無性に触りたくなってきて無駄と知りつつもボクは右手を伸ばし(くう)をニギニギしてみた。 「ん? チィ、何してんの?」 そんなボクの行動を不思議に思ったのか、虎汰が小首を傾げて聞いてくる。だから振り返らず手はニギニギしたまま教えてあげた。 「ボクね、あの白い雲に触りたいの。でも触れないの知ってるから頭の中でニギニギしてる」 「…………チィ………」 せっかく教えてあげたのに虎汰は何でか急に悲しそうな声になり、慌てて振り返れば皆が同じように辛そうなお顔になっていた。 どうしたんだろ、ボク変なこと言ったかなぁ? 「えと……あの、ボクがいたお部屋、窓がひとつもなかったの。だから……んと……」 言い訳のようにそう付け足したら、更に皆のお顔が苦しそうになっちゃった。どうしようとわたわたしていると、煌騎がボクの背中をポンポンと優しく叩いて落ち着かせてくれる。 「直接は触れないが確か『(くも)』は人工的に作る事が可能だった筈だ」 「あぁ、理科の実験だっけ……。うん、確かに再現は可能だよ♪ 今からやってみる?」 煌騎の言葉で和之さんが腰を上げる。 すると隣で朔夜さんが雲の作り方をPCで検索し、虎汰と流星くんも目を輝かせて立ち上がり率先して準備を手伝い始めた。 これから何が始まるのかとボクは首を傾げ、ポカンと口を開けたまま皆を見守る。そして準備が出来たと声を掛けられて、テーブルの上に集められた物を眺めた。 そこに並べられたのはカラになった円筒のペットボトルとライター、それから計量カップに入ったぬるま湯と濃い紫色をした……お線香? 「線香はアロマ用だけど別にいいよなぁ?」 「いいんじゃない、煙がでればなんでも……」 「それじゃチィ、実験を始めるよ?」 そう和之さんに尋ねられ、ボクはドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えながらコクンと頷いた。

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