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第99話

疲れているのか珍しく揺すっても起きなかった。だから実質ボクは今ひとりきり……。 でも怖くはない。だって今日は前からやってみたい事を実行する絶好のチャンスだったから。 いつものようにボクは煌騎の抱き枕になっていたけど、起こさないように注意してそこから何とか抜け出す。 そして未だに動かない右脚を引き摺ってゆっくり扉の近くまで行った。その時点でもうボクは疲れ果てて汗だくだ。 けれど今日こそは“アレ”を実現させたい。その一心でボクは乱れた呼吸を整えると、ドアを開けてまた一歩を踏み出した。 扉を抜けると今度は壁伝いに歩いてリビングの右手にあるドアへ向かう。 ボクの脚がこんなだからそこから先はまだ自分で出た事がなく、初日に買い物へ出掛けた際に一度通ったきりだ。 確か短い廊下があった筈だけど薄暗かったし、そこをひとりで通るのは怖い。でも目的の為だからなんとか頑張る。 第二関門である2つ目のドアにやっと到達した時には、ボクの息はゼイゼイと上がっていて苦しかった。 「……早く…しないと……皆、帰って来ちゃうっ」 気が焦るばかりで何をやってもトロいボクは、普通の人なら1分も掛からない道のりを10分以上も掛けてしまう。 扉を開けてペースを上げようと歩幅を大きくしたら上手く脚が動かなくて、何かに躓き派手に転倒してしまった。 「………はうっ」 床にうつ伏せとなったボクは直ぐに起き上がろうとする。けれど掴まるものが何もなくて、自力では起き上がれそうにない。 どうしようと顔を上げて前を見れば、廊下の突き当たりは吹き抜けになっていて、そこを右に曲がれば階段があった。 そこまで這っていけば手摺りがある。そう思ったボクはそのまま立つことを諦め、腕と左脚の力で前に進む事にした。 「んっ……あと…もちょっと、頑張れば辿り着けるハズ!……ふンッ…んっ…ぁ……あぁああっ!? 」 「―――チィッ、何をしているんだ!」 突然の浮遊感に見舞われ誰かに抱き起こされたかと思ったら、煌騎の少し焦った声が頭上から降ってきた。 あぁ、ついに見つかっちゃったか……。

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