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第108話

―――目が、笑ってない……。 鮎川さんの笑顔はユリの花を思わせるほど上品で美しいのに、何故かボクに向けられる瞳は氷のように冷たかった。 ボクは何か気に障る事でもしたのだろうかと動揺を隠せなかったけど、そういえばまだ挨拶を返していない事を思い出す。 だから慌てて頭をペコリと勢い良く下げた。 「んと、あの……初めましてっ、ボク茨 チィです。よろしくお願いします!」 何がよろしくなのかは自分でもよくわかっていなかったが、とりあえず昨夜練習した通りの挨拶をした。 身体が震え上がって上手く声が出せず、蚊の鳴くようなか細いものになってしまったけど、今はこれがボクの精一杯だから仕方がない。 相手にちゃんと伝わったか心配で窺うように顔を上げると、彼は優しく微笑んでくれたけどやっぱり目だけが冷たいままだった。 「どうしたのチィ、何かあった?」 一人戸惑っていると車中から出てきた虎子ちゃんが、まるで守るように背をこちらに向ける形でボクの斜め前に立ち、そして気遣わしげに後ろを振り返ってくた。 その様子を見て鮎川さんは一瞬だけ怯むが、彼女を強気に睨みつける。 「先日から流れているあの噂は本当だったようだね。ということは“白夜”も茨さんを庇護下に置くと捉えていいのかな?」 「当然でしょ、今更な事言わないでよ。チィと私はもう友だちなんだから、ね?」 「―――あう? う、うん……?」 突然話を振られて慌てて頷く。でもやっぱりというかボクは意味がよくわかっていない。 "庇護下”ってなんだろう? それに“白夜も”って…なに……? 「つかさぁ、わざわざお前ら何しに来たの?」 頭の中疑問符でいっぱいになっていると、虎汰がボクたちの間に割って入ってきた。その顔はちょっと険しくて怖いくらいだ。 彼の左肩に腕を回して立つ流星くんも威嚇するように鮎川さんたちを睨む。なのに彼だけは平然とした顔でニッコリ微笑んだ。 「いやだな、僕たちは生徒会役員なんですよ?もちろん転校生である茨さんを、理事長室にご案内しようとお迎えに上がりました」 さも当然というように言うと、鮎川さんは煌騎の方に向き直る。途端に彼の瞳はキラキラと輝き、憧れの眼差しを称えていた。 ボクの時とは雲泥の差だ。

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