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第109話
「白銀さん、茨さんを僕にお預け下さいますか?生徒会が責任を持って彼をご案内します」
余ほど彼に話し掛けることが嬉しいのか、鮎川さんは声のトーンが緊張で少しばかり高い。頬も赤く染め、憔悴しきったような表情をしている。
けれど煌騎はそんな彼には興味がないようで見向きもせず、校舎の方を見ながら即座にその申し出を断った。
「その必要はない。理事長室には双子に送らせる」
「―――えっ!? そ、そんな……」
鮎川さんは大きく目を見開いて愕然とする。まさか断られるとは思っていなかったみたいだ。周囲も驚いた様子でざわざわと騒ぎ始める。
なんでもこの学校では生徒会が中心となって、転校生の世話をするのが習わしらしい。
ボクの横で虎子ちゃんはシタリ顔でクスクスと笑い、ショックを隠しきれない彼にキッと睨まれていた。
「どうしてですか白銀さんッ!? 納得がいきません! 虎汰くんはともかく、このような女に彼をお任せになるなんてッ―――…」
プライドが傷ついたのか鮎川さんは虎子ちゃんを睨みつけたまま、必死になって煌騎に言い募る。
でもどんなに言い募っても彼の目線は校舎に向いたまま、首も縦には振らなかった。
「ハァッ…………俺に指図するな」
煌騎は面倒くさそうに言うと彼を一瞥し、それからボクたちの方に振り返って短く「行くぞ」と声を掛け歩き始める。
心なしか彼からは不機嫌なオーラが滲み出ていた。そして……
「………和之、“奴ら”が動き出したらしい。警戒は怠るなよ」
校舎の一点を見つめたまま、煌騎は険しい表情を左隣りを歩く和之さんにぼそりと呟く。
すると彼は一瞬何の事だと眉根を寄せたけれど、直ぐに煌騎の目線の先に気づき深刻な面持ちで頷いた。
「まったく、あいつらも懲りないなぁ」
「……う? う?……あいつらって、だぁれ?」
煌騎の後ろを手を引かながら歩いていたボクは、なんだか穏やかじゃない雰囲気に首をコテンと傾げる。
釣られて彼らの見ている方を振り向けば、東棟のあまり人が来なさそうな5階角の窓際に、はっきりとは見えないが二人分の影があった。
それはこちらを見下ろしているように見える。
目の錯覚かもと思ってもっとよく見ようとしたら、後ろからやって来た虎汰と流星くんに両腕をガシッと掴まれ強制的に前へと進められた。
「ほ~らチィッ、足は止めない止めない♪ 」
「サクサク行くぞ~! もう健吾さんは理事長室に着いてるらしいからなっ」
「う? うん……」
窓辺の人影は気になるが、健吾さんの名前を出されたら従うよりない。
ボクは後ろ髪を引かれる思いで虎汰たちに引き摺られるようにしながら、皆と昇降口へと向かったのだった。
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