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第110話〜可愛い獲物見ぃつけた♪〜(???side)

「クククッ……こっち睨んでる睨んでる♪ 」 ここは東校舎5階の隅にある旧理科準備室。 誰も使わなくなって久しいこの教室は学園の2大勢力の1つ、白鷲とも敵対している県内No.2の暴走族“(じゃ)(こく)”の溜まり場と化している。 だが今は人払いされ、窓際で上機嫌に外を眺めている我らがチームのトップ(とき)() ()()()とその補佐役の俺、()() (ゆう)()の二人だけがそこにいる。 声に反応してこっそりカーテンの隙間から外を覗けば、何事にも動じないあの白銀が鋭い眼差しでこちらを見上げ睨みつけていた。 瞬間、遠く離れてろくに表情も見えないというのに奴と目が合った気がして、背筋に冷たいものが流れる。 「ん~、だけど残念だな。思ったより薫ちゃん、あんま良い働きしてくんなかったね」 不意に亜也斗がつまらなそうに『彼にはがっかりだよ』と呟き、無造作に跳ねらせた紫の髪を弄りながらこちらに顔を向けた。 細長く吊り上がった瞳はまるでチーム名にもある蛇を連想させ、長年こいつとは連れ添った仲だがさすがに気味が悪いと思ってしまう。 完全に何か良からぬ事を企んでいる時の眼だ。 そとそもあの生徒会長に転校生が来る事をリークしたのはこいつだった。でなければ幾ら生徒会といえど、極秘事項を知るのは容易ではない。 今回の転校生『茨 チィ』の存在は、ほんの数時間前まで職員ですらも極秘扱いだったのだ。それを事前に調べ上げたのは俺だが、その情報を生かすも殺すも亜也斗次第……。 そしてその情報を元に生徒会長を動かしたのもこいつ。本来なら生徒会が転校生の世話をするのが習わしとは言え、会長自らが出向くようなことはまずない。 鮎川には手足のように動かせる人間が大勢いるからだ。なのにこの男は言葉巧みに惑わし彼の秘めた恋心を利用して、わざわざ人の目が集まる昇降口前まで行くよう仕向けたのだ。 単なる挨拶を兼ねた嫌がらせだと奴は捉えているようだが、実際のところ俺もこいつが何を企んでいるのかは分かっていない。 「……いいな、俺もあんなオモチャ欲しいよ」 「はっ!? オモチャって、まさかッ―――…」 「ホラ、あのちっこいの……。弱そうなのに丈夫で遊び甲斐がありそうだろ?」 そう言って亜也斗はサディスティックに微笑むと、陣馬と美月に挟まれて強制的に前へ歩かされている小柄な男に目線を移した。

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