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第111話

そいつは確か数日前、白銀自らが何処からか拾ってきたと下の者の報告では受けている。 だがどんなに手を尽くしてみても、俺にはあの小柄な男の素性を調べ上げることはできなかった。まるで国家機密並みに情報が管理され、その片鱗ですら触れられないのだ。 それが白銀の指示によるものなのかどうかは定かではないが、“白鷲”には情報管理のエキスパートである不破や天才的なハッカーの小城がいる。 できない話ではない……。 だとしたらあの小柄な男の後ろにはデカい組織が絡んでいるに違いなかった。不用意に手出しするのは危険すぎる。 下手をすればチームにとって不利な状況に成り兼ねない。 「亜也斗ッ、ダメだ! あれには手を出すなッ!! あのチビの素性はまだッ―――…」 「ダメだと言われると余計に欲しくなるんだよな~」 しまったと思わず口を掌で覆うが後の祭りで、亜也斗は俺の忠告にも耳を貸さず手のひらをヒラヒラ振ると、さっさと出口に向かってしまった。 そしてスライド式のドアに手を掛けるとゆっくり開け放ち、けれど立ち去る間際にこちらを振り返る。 「俺は欲しいものは必ず手に入れる主義なんだ。例えそれが入手困難なものだったとしてもね、知ってるでしょ?」 不敵に笑むと手をひらひら振り、今度こそ奴は俺を残して教室を出て行った。途端に深い溜息が漏れる。 「ったく、また悪い癖が出たか……」 亜也斗は一度言い出したら何があっても考えを変えない。しかも根っからのサディストだ。 あいつにとって自分以外の人間は傷つけ、苦しむ様を眺めて愉しむ為の玩具に過ぎない。 気に入った者は男女関係なく監禁し、生きながらに指を切り落としたり精神的苦痛を与えては身も心も壊す様を、俺は奴の隣りでずっと見続けてきた。 そんな性格破綻な男だが、チームのトップとしての技量は誰よりも優れている。だから俺は今まで個人の趣向だと諦め黙認してきた。 「だがよりによってあのチビを次のターゲットに選ぶなんて……ハァ」 考えれば考えるほど頭が痛くなる。 あの白銀があれほど大事に扱う男だ、必ず裏に何かあるに違いない。 「亜也斗、今回ばかりは慎重に事を進めないとマジで身の破滅に繋がり兼ねないぞ……」 誰もいなくなった教室に俺の言葉だけが虚しく響いた。

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