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第114話

遂には脚が竦んでその場にしゃがみ込んでしまい、首をフルフルと振って彼らを懸命に拒絶する。 今すぐこの場から逃げ出したいのに、退路を断たれてしまってはどうにもならない。 あまりの恐怖から両目いっぱいに涙が溢れた。 けれどここで泣けば相手は余計に面白がるだけだと自分に言い聞かせ、なんとかグッとそれを堪える。 「お~いお前らぁ、ちっこいのが更にちっこくなってんだろぉ? 白銀んトコの大事なお客さんなんだからそう怖がらせるなよ~」 紫色の髪の男はまるでボクを嘲笑うように再び口角を弓形に上げた。だが彼の瞳は笑ってなどいない。氷のように冷たく、蔑んだ眼差しでこちらを見ている。 それを見た瞬間、心の底から怖いと思った。 “この人に捕まったら殺される―――…ッ!” そう何故か直感で感じてしまう。 この眼をボクは過去にも日常的に向けられていたことがある。かつてボクが閉じ込められていた場所で、『管理者』と呼ばれていた人もこんな風にボクを見ていた。 ―――やっぱり見間違いじゃなかったんだ…… 冷酷な眼差しをする紫色の髪の彼を目の当たりにして、漸く確信する。もしかしたらあの人がボクのお父さんなんじゃないのかなと思っていた時期もあった。 でもその人から向けられていた目線の正体を、今ようやく知った。 あれは明らかな“殺意”だ―――…。 「―――ふっ、うぅ……」 哀しみのあまり嗚咽が込み上げてくる。 どうして人は信じ難い事実を目の当たりにするとこうも弱くなるのだろう。 瞳に溜まった涙は容易く決壊し、ポロポロとボクの頬を伝った。驚いたのは周りを取り囲む男の子たちの方だ。 「うわっ、何こいつッ!? 突然泣き始めたぜっ」 「えっ、俺たちまだ何もしてねーよな?」 急に号泣し出したボクに男の子たちは一瞬怯んで数歩退く。そして口々に『意味わかんねーんだけど?』と吐き捨てる。 でも今はそんなの構ってられなかった。 誰からも愛されていないのはもうずっと前からわかっていたけど、まさか“あの人”に殺意まで抱かれていたなんて……。 哀しみに胸が押し潰されそうになる。

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