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第115話
だけど更に追い打ちを掛けるように、紫色の髪の男がイライラした様子で話し掛けてきた。
「あのさぁ、なに悲観してるのか知らないけど俺の存在無視しないでくれる、おチビちゃん?」
そう言うと彼はボクの肩を掴んで強引に自分の方に向かせ、無理やり顔を覗き込んでくる。
その掴んだ腕があまりに痛くて、彼と目を合わせる前に顔を顰めた。
「………フフッ、いいじゃん。その苦痛に歪めた顔いいねぇ、モロ俺の好みだよ♪ 」
腕を掴んだまま男は満足そうにニヤリと笑う。
その不気味な笑みにボクは小さく息を呑んだ。背筋に嫌な汗が流れる……。
「ねぇ、ところで逃げないの?俺が怖いなら早く逃げなよ。ほら、キミの直ぐ横に外へ出られる扉があるよ?」
「……………う?」
ワケの分からない事を言い出す彼に動揺し、けれど反感を買わないように恐る恐る首を傾げた。
すると紫の髪の男はボクの肩から手を放すと、顎をしゃくって左側を指す。指された方を見ると彼の言う通り、ボクの直ぐ横には校舎の裏庭へ出られる勝手口みたいな扉があった。
その扉は小さな小窓が付いているだけで壁と同色な為、周りと同化していて気がつかなかったようだ。
でも彼の言っている意味がますますわからなくて戸惑ってしまう。この人は何がしたいのだろう?
恐怖から動かずそのままでいると、紫の髪の男は忌々しそうにチッと舌打ちをした。
その音にボクの肩がビクッと跳ね上がる。とその時、背後からこの場には不釣り合いな女の子の声が聞こえた。
「あら、こんな薄暗い所で大勢がひとりを取り囲んで何をしているのかしら?」
その声に皆が反応して振り返ると、そこには艷やかな黒髪がとっても綺麗な美少女が静かに微笑みを浮かべ立っていた。
途端にボクを取り囲む男の子たちがザワザワと騒ぎ出す。
「げっ!? ヤベーよ、鷲塚だ……」
「つかなんで鷲塚がこんなトコにいんだよ!? ガッコ違うだろっ」
そんな彼らの声がボクの耳には聞こえた。彼らは男だし数も圧倒的に多い。負ける要素など微塵も見当たらないのに、何故か皆、華奢な彼女に怯えているように感じた。
それとも男もなぎ倒せる程の武術の達人……?
周りの警戒心を余 所 に少し離れた位置に立つ女の子は、尚もニコニコと微笑みながらこちらを見ている。
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