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第116話

「ねぇ亜也斗くん、こんな所で何してるの? 貴方の大好きな“ウサギ狩り”は確か先週、学園内でやるのは禁止されたって噂で耳にしたけど……」 笑顔のまま紫の髪の男を真っ直ぐに見据える彼女は、男の子から"鷲塚”と呼ばれていた。歳はボクと同い年くらい? 大勢の厳つい男の子たちを前にしても堂々としていて、怯む様子は一切見られなかった。 「さて、何の事かな? 麗しき鷲塚家のご令嬢さん」 「フフッ、誤魔化しても無駄よ。校舎内に貴方の手下がHRも出ずにうろうろ徘徊しているもの、バレバレだわ♪ 」 「それってさ、ただサボってるだけじゃない? まさか俺にいちいち手下どもに注意して回れって言う気じゃないだろうね?」 彼女が核心を突いても“亜也斗”という紫の髪の男は、終始へらへらと嫌な笑みを浮かべてその場を茶化す。 彼はこの状況を彼女に弁解するつもりはないのだろう。そして鷲塚という女の子も、そう深く追求する気はないようでわざとらしく溜め息を吐く。 「まぁいいわ、今日は機嫌がいいから見逃してあげる。さっさと消えなさ―――…」 「―――やはり貴様の仕業か常磐ッ!」 突如反対側の廊下から彼女の言葉に被さるように男の人の声が響いた。弾かれたように皆が一斉にそちらへ振り向くと、そこには静かな怒りを滲ませた煌騎が立っている。 そしてその後ろには息を切らせた和之さんと、朔夜さんの姿もあった。 「……あ……う…うぅっ、煌騎ぃ! 煌騎ぃッ!!」 ボクは煌騎の姿を見た瞬間、心の底から安堵し感極まって泣き出してしまう。 でも助けを求めるように差し出した手は、無情にも亜也斗という男によって遮られた。 「これはこれは……、白鷲のトップ自ら出向いてくれるとは光栄だね♪ 」 彼はそう言ってゆっくり立ち上がるとボクの前に立ちはだかり、落ち着いた様子で煌騎らに向き合う。 ひと度絡み合った視線は微動だにしない。彼らは静寂な中互いに激しく睨み合い、辺り一面に緊迫した空気が流れた。 それを肌で感じたボクは、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。あれだけ皆に校舎内は一人で彷徨くなと言われていたのに……。 「……ごめ…なさ…っ、ボクの……所為で…ごめんなさぃ煌騎……ッ」 止め処なく溢れる涙を懸命に堪えながらボクは煌騎たちに謝った。

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